研究課題/領域番号 |
19K13088
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
上原 かおり (関野かおり) 首都大学東京, 人文科学研究科, 客員研究員 (30815478)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 『小霊通漫遊未来』 / 杜建国 / 第五届中国(成都)国際科幻大会 / 『科幻世界』 |
研究実績の概要 |
2019年度は、中国での調査を2回(上海1回、成都1回)、国内での調査を1回(大阪)行った。 上海では、著名な中国児童SF『小霊通漫遊未来』の挿絵を担当し、同名の連環画のイラストを担当した杜建国氏を訪問した。著者の葉永烈については一定の先行研究があるが、そのイラストレーターについてはほとんど知られていない。ミリオンセラー『小霊通漫遊未来』は、中国「科学文芸」の形成発展を研究する上で重要な作品である。イラストの効果にも注目した多角的な研究を進めるため、訪問調査を行なった。また、上海図書館にて科学普及読物作家・高士其に関する中華民国期の資料を閲覧した。さらに、同出張中に開催されていた上海書展(SHANGHAI BOOK FAIR)を参観し、科学普及読物出版物を閲覧、購入した。 成都では、「第五届中国(成都)国際科幻大会/THE 5TH CHINA(CHENGDU) INTERNATIONAL SF CONFERENCE」に参加し、「多元的日本科幻」(共同)、「日本如何看《三体》」(共同)に登壇した。本大会では、SF専門誌『科幻世界』の創刊40周年を記念する企画が実施された。『科幻世界』の創刊時の誌名は『科学文芸』である。本大会への参加により、「科学文芸」の変遷に関する新たな認識を得た。また同出張において、四川大学で開催された「中国科幻研究院成立儀式、学術高峰論壇」において、対談「英語之外的科幻風潮/SF:Outside of the English World」に登壇し、非英語SFの発展について、欧州や東南アジアなど英語圏以外のSF作家・出版関係者と意見交換を行った。 大阪では、日中児童文学に詳しい成實朋子教授(大阪教育大学)を訪問し、「科学文芸」に関連する蔵書を閲覧した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『小霊通漫遊未来』のイラストレーターである杜建国氏訪問によって当時の美術編集者の生活や海外のイラスト情報の入手方法をはじめ、杜建国自身が構想し展開しようとしていた作品などがわかり、研究に進展があった。より充実した研究に向けて、年度末に中国に渡航し関連資料を収集する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響によって渡航を見合わせた。今後も資料の収集には時間を要することが予想される。 本研究初年度の2019年は、日本でにわかに中国のSFが注目を浴びるようになったため、複数の作業要請に応じることとなった。SFを内包する中国「科学文芸」を通時的な観点から分析する本研究の目的からすれば、それらの作業や実体験は有益であると考える。とりわけ、SF都市宣言を行った成都で開催された「第五届中国(成都)国際科幻大会」への参加は、昨今、世界で存在感を増している中国のSFの様子を目の当たりにできた点で貴重だろう。しかし、より本格的な現地調査のための渡航は、新型コロナウイルスの流行のため見合わせざるを得ない状況にある。 渡航調査の目処が立たないため、優先して進めていた『小霊通漫遊未来』をはじめとする1970、80年代前後の「科学文芸」に関する研究のペースを落とし、手元の資料の閲読・再読、整理分析などの作業に切り替えた。主な対象は、マクシム・ゴーリキーの文学論、ミハイル・イリーンの作品や創作談、文芸講話・社会主義リアリズムに関する研究、『十万個為什麼』シリーズ、1940年代前後の「科学詩」である。
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今後の研究の推進方策 |
中国への渡航による調査ができないことを想定し、作業手順を変更して、手元の資料の閲読・再読、整理分析に集中し、論文としてまとめる。主に二つの方向を考えている。 一つは、マクシム・ゴーリキーの文学論、それを実践したミハイル・イリーンの作品や創作談と、イリーンの著書のタイトルを模した中国の『十万個為什麼』シリーズに関する論文である。この論考は、文芸講話や社会主義リアリズムに関する先行研究と重なるが、本研究の下では特に科学言説に焦点を当てる。 二つ目は、「科学詩」に関する論文である。この論考は、前研究の、高士其と「科学小品文」に関する論考の延長となる。 以上の論文の執筆を優先し、時期を見て杜建国に関する資料収集や、SF都市・成都市と『科幻世界』の現地調査を再開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備調査のための中国への渡航において、現地の団体からイベントへの登壇要請を受けて応じたため、旅費の支出が減少した。また、年度末に資料収集のため予定していた中国への渡航を中止したため、旅費と物品費の支出が減少した。加えて、2020年度に他研究機関への変更予定があったため書籍の購入を見合わせた。 2020年度は、社会調査の叢書を購入する計画がある。また、新型コロナウイルスの流行によって中国への渡航による資料収集の目処が立たないため、現地の研究協力者を雇用することを計画している。
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