研究課題/領域番号 |
19K13088
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
上原 かおり フェリス女学院大学, 国際交流学部, 准教授 (30815478)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国のSF / 科幻小説 / 文芸講話 |
研究実績の概要 |
2021年度は、口頭発表1回、論文1編、解説2編を発表した。 日本中国当代文学研究会(オンライン開催)にて「「辺境」の文学であったSFが『人民文学』に掲載されるようになったということ」を報告し、報告をもとに論文「「辺境」の文学であったSFが《人民文学》に掲載されるようになったこと」を発表した。本論文では、2010年代、中国作家協会の機関誌である《人民文学》にSFが頻繁に掲載されるようになった点に注目し、SFの書き手にとってのSFの文学的位置付けを踏まえつつ、SF掲載の背景と意味について考察した。まず、SFの書き手にとって、SFは周縁の文学であると同時に開拓される新分野であること(論文ではこの両義性を表すため「辺境」という語を提示した)、想像の領域を開拓しようとする欲求があることを分析した。次に、《人民文学》誌面の変化を追い、「中国の夢」すなわち「「中華民族」の偉大な復興実現」を目指す習近平政権の文芸政策の影響が明白に表れ始めていることが確認できたことから、習近平の文芸講話を、毛沢東の文芸講話を参照しつつ読み、前者の主張するところがSF、特に陳楸帆が推し進める「SF的リアリズム(科幻現実主義)」による創作と親和性があることを指摘した。そしてSF作家の意図に関わらず、SFが「中国の夢」に貢献する文学として機能しはじめているのではないかと結論づけた。 解説は、中国文学解説書『中国文学をつまみ食い:『詩経』から『三体』まで』において「劉慈欣『三体』」「科学と幻想──SF小説」を担当執筆した。 そのほか、引き続き児童SFのイラストレーターとして活躍した杜建国に関する論文を執筆中である。並行して、ソ連科学文芸を中国に紹介した編訳者の回想記録と手元の資料との関連性について整理作業を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19の影響により渡航調査・訪問などを実現できず資料の収集や交流に遅れが生じており、研究精度を高めることが困難になっているなか、手元の資料や近隣の研究機関で確認できる資料によって、中国におけるSF(科幻小説)の近年の状況について考察し、口頭発表、論文を執筆発表した。本来であれば「科学文芸」のキーパーソンの一人である杜建国に関する論文を完成する予定であったがいまだ執筆中であるため「遅れている」とする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初の計画からすると遅れているため、本課題の最終年度であるが、目標達成にむけて引き続き資料を収集する。 海外渡航調査・訪問の目処はたたないため、国内から入手可能な資料を引き続き収集する。 論文では、執筆の滞っている杜建国に関する論文を完成、発表することを優先する。 そのほか、ソ連科学文芸を中国に紹介した編訳者の手記や先行研究(主に中国の研究者による)などを引き続き整理し、インターネットを通じて、具体的・建設的な研究交流を実現し、この方面の研究を活性化したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外渡航調査・交流を予定していたが実現せず、旅費が生じなかった。2022年度も海外渡航調査の可能性は低いため、国内の調査を積極的に行いつつ、仲介専門書店を通じて海外資料の収集を行う。また、中国「科学文芸」に関する研究論文がある研究者とインターネットを通じて研究交流会を実施し、記録資料作成を行いたい。
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