2022年度は、新型コロナウイルスの世界的流行の影響が緩和したとはいえ、予定していた国外(中国)への出張は不可能であった。その一方で、国内出張が可能となり、資料調査および研究会への参加を通じて、ある程度の成果をあげることが出来た。 例えば、東洋文庫(東京都)・各種図書館の資料調査を実施し、これまでの民国期を対象とする中国漫画の調査・考察を補完した。この結果については、研究報告「1940、50年代における葉浅予の中華民族認識」(建国初期中国を移動する身体メディア・プロパガンダ第2回ワークショップ、東京大学駒場キャンパス、2022年9月3日)において、部分的に発表している。 また、本年度は予定通り、研究書『中国漫画のモダニズム――葉浅予と王先生の物語』(関西学院大学出版会、2023年)を刊行することが出来た。この研究書は主に1930年代を対象とするものではあるが、①20世紀中国美術史における漫画の位置付けに触れたこと、②特に終章において1940年代に目を向けたことなど、本研究の成果を反映させている。 本研究は、期間全体にわたって新型コロナウイルスの世界的流行の影響を被ったため、当初の計画を抜本的に変更せざるを得なかった。その一方で、各種データベース、および影印本の調査により、部分的にではあるが、1940年代中国における漫画の状況および葉浅予の創作の実態について整理・検討ができたように思われる。 その一方で、葉浅予一人、および漫画だけに着目しているだけでは、どうしても資料的な限界があることも判明した。今後は新たな芸術家も視野に入れた上で、中国近代美術について考察を続ける予定である。
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