令和4年度は最終年度にあたるため、過年度に実施した学会発表を論文として発表する準備を進めた。過年度の学会発表の論文化に関しては、キャサリン・ビーチャーが分離領域の考え方を擁護するなかで領域侵犯を犯していることを明らかにした、『家政学論』を取り上げた令和4年度の学会発表(「キャサリン・ビーチャー『家政学論』に見る女性性」)の活字化に取り組んでいたが、残念ながら研究期間内に刊行するにはいたらなかった。研究期間は終了してしまうが、令和5年度中には論文発表を行いたい。 また、研究計画では近代アメリカ文学研究についての最新の動向を探ることも目的として国内外の学会に参加する予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大が続いて移動が制限されていたため、令和3年度まで旅行を実施することができなかった。しかし、国内外の移動の制限が緩和されたため、令和4年度には国際学会(MLA2023)に参加し、近代アメリカ文学研究についての知見を深めた。学会に参加して最新の研究動向を探ることにより、本研究課題の意義や展開の可能性について検討することができた。 本研究課題では、19世紀前半の家事指南本などの出版物において、「本物の女らしさ」と呼ばれる女らしさの規範の柱の一つであった「家庭性」の概念がどのように提示されていたのかを示し、ハーマン・メルヴィルの短編作品での主婦の表象にうかがえるように、この概念は男性作家による小説にも反映されていることを示した。取り上げた作家はハーマン・メルヴィル一人に留まってしまったが、「家庭性」の概念のフィクションへの反映の考察は本研究について特筆すべき点である。
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