研究課題/領域番号 |
19K13099
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
中嶋 英樹 多摩美術大学, 美術学部, 講師 (70792422)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モダニズム / 注意力 / 注意散漫 |
研究実績の概要 |
当初の計画にしたがい、3カ年計画の初年度2019年度は、注意・集中、散漫な注意といった本研究の根幹をなす概念の整理に向けた文献調査および執筆準備に当てられた。一年間を通じた文献収集のほか、2019年8月には、英国ロンドン市内の大英図書館、ロンドン大学セネット・ハウス図書館などを活用した集中的なリサーチも実施することができた。 本研究は1900年前後の英国小説を主題とするものであり、収集の中心となったのは、19世紀後半から20世紀前半の哲学・倫理学・心理学書および各作家研究の論考であるが、その他、それに前後する時代、あるいは、他の文芸様式に関しても注意力に関する議論が発表されつつあることが明らかになったため、その収集も英国文学に限定することなく進めた。さらに、本研究は注意・集中、散漫な注意といった概念を、退屈、眠気、トランス、自動現象といった、心的現象の一部として議論することを予定したものであり、こうした関連事項の文献も1900年前後を対象とした文学研究を中心に調査している。そして、その周辺には、感情をめぐる歴史学、文学研究における認知主義なども本研究の枠組みに関連するものとして構想されており、文献情報の収集を進めている。 また、具体的な作家・作品の実例研究も並行して進めており、ヴァージニア・ウルフに関する口頭発表の活字化が、投稿直前の段階まで進んでいるほか、トマス・ハーディやフォード・マドックス・フォードに関する資料の収集も進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、注意力概念をめぐるレビュー論文の執筆に予定通り着手しているため。注意力概念をめぐっては、心理学史、哲学史などでの整理が存在するが、上述の文献収集から、本研究では、文学・文化史研究として、「時代」と「文芸様式」という枠組みによる分類が可能であるとの見通しがついた。注意力と文学とを関連付ける言説は、先行研究が強調する1900年前後のほか、それ以前の時代にも今日を含めたそれ以後の時代にも見られ、特定の文芸様式(詩や小説・散文)を特定の注意力のモードと結びつける言説が遅くとも18世紀には成立しているおり、その概要をレビュー論文にて整理したい。 つづいて、個別作家論については、ウルフ論については、教養小説と注意力の獲得、作中のジェンダー分割と注意力のモードの分割の対応、散漫な注意力の優勢(のちの実験的文体につながる)をいった論点を扱い、さらに、口頭発表時に質疑にあがった論点(音楽と注意力)について、2019年出版の研究書が入手できたため、その議論を組み込む加筆修正などを行っており、査読誌への投稿も間近だと判断している。フォード論については、基礎文献の収集やその精査から、本研究の枠組みで扱うことに無理のないことは明らかになっており、より具体的な作品分析に移る段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の関係から本年度は、計画にあった英国での文献調査や学会での口頭発表の実施が難しい可能性があるが、幸いなことに、前項で述べたレビュー論文およびウルフ論については、おおよその資料が集まっていると判断できるため、具体的な研究成果を発表すべく、論文執筆作業を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定より、個別作家研究の関連書籍の購入冊数が少なくなっため。2020年度は、国内において文献を収集せざるを得ない(オンライン化された資料を含め)可能性があり、物品費として使用したい。
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