研究課題/領域番号 |
19K13106
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
雲島 知恵 奈良女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 講師 (50737434)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 旅行記研究 / 日露戦争 / 日米外交 / 米国女性文学 / 情動 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、日英米の女性による文学・旅行記研究を通して、日露戦争から第二次世界大戦終戦までの約40年間の三ヶ国の女性達による芸術・情動を媒介とした外交活動を追い、その意義について検証するものである。文学・芸術を外交の一形態と見做すことで、女性にどのような政治参加、外交貢献の可能性が開かれるのか、またその効果について検討することを目的としている。 研究1年目の令和元年度は、アフェクト理論及び20世紀前半の日英米市民外交に関する先行研究の調査と文学作品の読解作業を進めた。特に日露戦争時の米国女性達(Alice Mabel Bacon、Eliza Rahamah Scidmore)の親日文学活動に注目し、Baconが、自身唯一のフィクション作品であるIn the Land of Gods(1905)の中で、英語版編者として関わった櫻井忠温のHuman Bullets(1907)とは対照的に、女性の日露戦争体験をゴースト・ストーリーのジャンルを利用して描いていること、このジャンル選択にはLafcadio Hearnの怪談の影響があること、恐怖感覚を利用して英語圏読者と日本との間に情動的繋がりを生み出すことに成功していることなどを明らかにした。ナショナル・ジオグラフィック誌の記者としての活躍が有名なScidmoreも、日露戦争をモチーフとして自身唯一のフィクション作品As the Hague Ordains(1907)を発表しており、米国女性作家による日露戦争の表象と文学という媒体の選択は、本研究の目的との関連で興味深い。 また、戦間期にTokyo Penwomenという主に英米出身の女性作家達による国際的文学共同体が存在していたことも明らかにした。与謝野晶子や野上弥生子、中條百合子などの日本人作家との繋がりも判明しており、女性による文学外交という視点から今後も調査を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アフェクト理論及び芸術の民主主義との関係について先行研究をまとめる予定としていたが、本研究の一次資料を成す文学作品を度外視し理論に走っては本末転倒と考え、2年目以降に予定していた文学作品の読解を前倒しして開始したため、前者の進捗状況が少し遅れている。また、共著内担当論文の原稿修正及び単著の原稿締め切りと重なったことも、本研究の遅れに影響している。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、日露戦争から第一次世界大戦終戦までの旅行記及び文学作品について研究を進める。その上で、特に、Scidmoreによるワシントンの桜の植樹計画や、Tokyo Penwomenとの関わりが分かっているAnnie Shepley Omori、Frances Hawks Cameron Burnett等の未刊行史料の調査をPhillips Library、Library of Congressにおいて行う。それらの資料を元に、日露戦争とTokyo Penwomenについて雑誌投稿のための原稿を執筆し、学会発表も行いたいが、新型コロナウイルスのパンデミックの状況次第では未刊行資料の調査を断念し、既に入手済みの資料、及びオンラインで手に入る資料を元に、論文執筆を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのパンデミックにより、2020年4月上旬に研究発表を予定していた米国シカゴのロヨラ大学での国際学会FiMA2020の開催が延期となったため、次年度使用額が生じた。使用計画については、同学会の開催が2021年度4月に予定されているため、その参加費及び渡航・滞在旅費に充てることを計画している。
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