本年度はこれまでの研究の総括として、社会派の女性ジャーナリストに著しく不利な状態にあったヴィクトリア朝社会にあって、女性であり、聴覚障がい者でもあったイライザ・ミーティヤードが、現代のジャーナリストに近い取材・調査方法を用いて時代に先駆けた執筆を続けられた理由を考察した。主な理由は3つある。第1にロンドンに移り住み、性別に関係なく利用できる大英博物館の図書室に通い、聴覚障がいを補って余りある大量の資料にあたることができたこと、第2にユニテリアン急進派の人脈に恵まれ、彼らが編集・出版する大衆向上雑誌に寄稿することで社会派ジャーナリストとして訓練を積めたこと、第3に宗派や階級、性別に関わらず多様な知識人を惹きつけたユニテリアン急進派の人脈とホイッティントン・クラブを通して、さらに広い範囲で様々な出版社や雑誌編集者、また将来的に(耳の調子が良いときに補聴器を用いて行う)取材の対象となる情報提供者と知り合い、ジャーナル記事の作成や寄稿のための機会を得たことである。 研究成果物としては、「Harriet MartineauとEliza Meteyard―交差するユニテリアン・ジャーナルとユニテリアン・ネットワーク」を、日本ヴィクトリア朝文化研究学会『ヴィクトリア朝文化研究』(第21号)に寄稿した。他には、まだ出版に至っていないが共著『人種と民族を考える十二章』(音羽書房鶴見書店)にミーティヤードの作品に登場するユグノー移民について論じた章を寄稿している(現在印刷中)。また本研究とは直接のかかわりはないが、今後ミーティヤードと比較する可能性を視野に入れて、同時代を生き、後に首相として政治の中核に位置するベンジャミン・ディズレイリの社会問題小説『コニングズビー』」第5巻7・8章の翻訳を、欧米言語文化学会『Fortuna』第35号に発表した。
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