研究課題/領域番号 |
19K13124
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
岡本 広毅 立命館大学, 文学部, 准教授 (10778913)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | J.R.R. トールキン / 中世英語英文学 / ファンタジー |
研究実績の概要 |
初年度、J.R.R. トールキンのファンタジー創作の源泉として中世英語英文学に関する研究業績を調査した。まず、本研究の前段階として、「ファンタジー」の歴史的変遷と現代の広がりを“medievalism” 中世主義(あるいは “neomedievalism”「新中世主義」)の知見に基づき整理を行った。学術論文を文化の一端として捉え直すことにより、トールキンの著作において学術と創作領域は対立せず、根底で結びついていることを確認した。この点で、「ベーオウルフ論」や「妖精物語論」は、中世と現代ファンタジーの橋渡しを担う重要な成果である。後半は、1953年にWilliam Paton Ker記念講演で発表されたSir Gawain and the Green Knightに関する論考に焦点を当て、中世文学作品を介したトールキンの「妖精物語論」としての一面を考察した。本論は他の学術著作と比べあまり注意が払われていないが、トールキンの「準創造」と関連した重要な思想が随所に窺えるものである。とりわけ、ガウェインの試練である誘惑の場面、そしてそのリアルな状況下に潜む「妖精の空気」への着眼は独創的であり、「現実」と「ファンタジー」双方の織り成す文学性・芸術性が高く評価される。本研究では、初版校訂本(1925年)の序文や註釈、現代英語訳(1975年)とその序文(1953年のラジオ放送に基づく)、そして『妖精物語について』なども視野に入れ、トールキンによるSir Gawain and the Green Knightの読解のあり方を再考した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究業績に関する二次資料については比較的調査できたものの、一次資料(原稿など)に基づく現地でのリサーチを行うことができていない。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、トールキンの学術著作を網羅的に調査し、精読することで現代ファンタジー文化の形成と関連づけてみていく。William Paton Ker記念講演(Sir Gawain and the Green Knightに関する論考)については、中世文学研究の多様性を扱った論文集に掲載される予定である。本論は同時代の文化的・学術的文脈(神話学、人類学、民族学、文学理論など)、そしてトールキン自身の創作への影響という観点からさらなる研究の余地を残している。本論の原稿に関する現地調査については今のところ未定である。また、今年度の変更点として、2月に立命館大学にて「英国アーサー王物語のグローバルな受容と変容」(“Negotiating Cultures in Arthurian Fiction”)と題した国際学会を予定している。本学会はグローバルに展開されるアーサー王物語の受容と変容について観察し、中世文学あるいは中世研究の現代的意義を考察する試みである。トールキンのアーサー王物語関連の学術著作や翻訳を重要な研究資料とする本研究は、本学会の目的に沿ったものである。ここでは、日本における『ガウェイン卿と緑の騎士』の受容に関する研究成果を発表する場とし、これまで注目されていない歴史的受容のあり方とファンタジー領域への影響を探っていくこととする。こうした具体的な作品の研究から、日本のアニメやゲームなどのサブカルチャーの領域における展開に目を向けていくきっかけとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額生じた理由】英国での現地調査を行えなかった、また国際学会へ不参加とそれに伴う謝金を使用しなかったため、未使用額が生じた。 【使用計画】今年度の成果を発表する場として次年度シンポジウムを予定しており、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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