最終年度は、前年度までの資料調査をもとに、研究対象となる文学テクストの分析を行った。研究成果としては、前年度に開催された日本英文学会関西支部第14回大会のシンポジウムにおける口頭発表の成果を学会のホームページにプロシーディングスとして発表した。また、本年度は日本英文学会東北支部大会において、シンポジウム「英米文学における記憶と想像力」を企画したうえで研究発表を予定していたが、コロナウイルスの全国的な感染拡大によりシンポジウムが延期となったため、この成果は次年度に発表する予定である。 本研究を進めるうちに、冷戦期の虚構物語におけるディストピア表象と集団的記憶は、同時代の冷戦構造や核戦争の脅威によるものだけでなく、第一次世界大戦から第二次世界大戦へと至る海軍の表象、第二次世界大戦におけるホロコーストやロンドン大空襲(The Blitz)における被害の記憶などと複合的に結びついて表象されている可能性を見出すことができた。特に、戦時におけるイギリスの加害と被害の記憶が混淆されて表象されている点が肝要だと思われる。また、19世紀の海洋冒険小説に胚胎する帝国主義的な「男らしさ」(masculinity)の残滓が冷戦期ディストピア小説の中で反復的に描かれている可能性についても考察することができた。 前述した事情により最終年度に研究成果を発表することはできなかったが、今後はこれまでの成果をもとに、再度シンポジウムを企画し、日本英文学会東北支部での発表を予定している。また、ウィリアム・ゴールディング(William Golding)のテクストを起点に論考をまとめたいと考えている。
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