研究課題/領域番号 |
19K13136
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
久保田 静香 日本女子大学, 文学部, 准教授 (60774362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | デカルト / ラムス主義 / 記憶術 / ルルスの術 |
研究実績の概要 |
本研究が主に目指すところは、(1)16世紀のラムス主義者と17世紀のデカルトおよびカルテジアン(デカルト主義者)による「文芸」改革の系譜を辿ること、(2)それにより、説得術・弁論術としての古典レトリックが18-19世紀に「文彩・修辞」研究に次第に特化されていった近代修辞学との関連を見極めることである。 2020年度は、(1)に関わる一つの研究成果として、論文「デカルトと記憶術の伝統―ラムス主義を経由して―」(日本女子大学文学部紀要第70号)を発表することができた。本稿ではまず、デカルトの初期思想において、a)16-17世紀ヨーロッパに普及した「記憶術」や「ルルスの術」に対する特別な関心がみられること、b)「記憶」の問題がデカルト哲学の成立自体に関与していることに着目した。そのうえで、イサーク・ベークマン(1588-1637)やランベルト・トマス・シェンケル(1547-1625)といった、ラムス主義に共鳴しつつデカルト自身とも関連のある人びとのテクストを通じて、ラムス主義的な思想がデカルトの初期思想の形成においていかなる作用を及ぼしていたのか(あるいは及ぼしえたのか)について、具体的な考察を行い、おおむね納得のいく結論を導き出すことができた。 また、第6回フランス近世の知脈研究会(大阪大学)、および第59回史学研究会大会(日本女子大学)にて、フランス思想・文学の専門家だけでなく、歴史学の専門家を前にして研究報告を行う機会があり、本研究の意義と内容を伝え、それに対して実に有意義な学術的コメントを多数得ることができた。これらの口頭発表が、論文執筆に大いに寄与した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度に行った、ラムス主義を経由してデカルトにおける記憶術の問題を再考するという問題は、本研究課題の当初の計画にあったものである。1年遅れたとはいえ、これを論文の形で発表できたことは大きな成果であったと言える。 なおこのほかに、当初の予定にはなかったが、新たに、論文「アンニウスのみた起源の夢―一六世紀フランスにおける起源神話と国語意識の芽生え―」が雑誌『ユリイカ(2020年12月号)』に掲載され、さらに、翻訳「「ジャン・ボダン、『七賢人の対話』、自然宗教の起源」」が、共訳書『懐疑主義と信仰―ボダンからヒュームまで―(ジャンニ・パガニーニ著、2020年)の第1章として刊行された。 これらの成果のうえに立ち、17世紀以降のデカルト主義者(ポール=ロワイヤル派やベルナール・ラミ)による「文芸」改革をめぐる研究に確実に着手できるとの手ごたえを得た。以上から、総合的に評価して、本研究課題はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年9月に開催予定の「第8回フランス近世の〈知脈〉」研究会(大阪大学)にて「デカルト主義者ベルナール・ラミのレトリック理論」(仮題)と題する研究発表を行うこととなっている。熱烈なデカルト主義者として知られるベルナール・ラミ(1640-1715)による『レトリック、話す技法』執筆の企図と内容から、「ポール=ロワイヤル修辞学」とも評価される。ラミの著作は、ジャン=ジャック・ルソーが愛読したと知られるとおり、思想・文学史上のその役割の重要性がかねて指摘されながらも、本邦でラミ研究はほとんど進展していない。本研究課題の要ともいえるベルナール・ラミ研究に足がかりを築き、論文として学術研究誌に発表することを2021年度の最大の目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
二つの大きな理由がある。(1)新型コロナウイルスの世界的流行により、当初計上していた「旅費」の支出がまったくできなかったこと。(2)2020年度4月に専任教員として日本女子大学に着任し、学務や急な遠隔授業への対応を最優先することを余儀なくされるなか、勤務先の新たな科研費執行システムのなかで、効率的な支出がかなわなかったこと。 以上を踏まえ、2021年度の計画は下記の通りとする。(1)新型コロナウイルスの流行の完全収束は依然として期待できないため、2020年度同様、「旅費」の支出を見込むことはできない。(2)着任2年目となり、勤務先の仕事にも慣れてきたため、洋書や貴重資料の購入を中心に、主に物品費の効率的な支出を心がける。
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