昨年度に掲げた課題の一つに「京都ユダヤ思想学会学術大会シンポジウム」での口頭発表があった。これについては予定通り2022年6月25日に「ペトルス・ラムスの「方法」と文法改革─16-17世紀に普及したヘブライ語文法書との関連において─」という題目で報告を実施のうえ、本報告にもとづく同タイトルの論文を執筆した(学会より依頼あり)。本稿では、ラムスの弟子であったペトルス・マルティニウスによるラテン語のヘブライ語文法書が「ラムス主義の方法」にどれほど依拠して書かれたものであるかを見定め、その伝播の理由の一端を16-17世紀のヨーロッパ・プロテスタント諸国の知的文化事情に照らして明らかにした。本稿は学会誌『京都ユダヤ思想 第14号』に掲載のうえ、2023年6月刊行予定である。 上記の研究を発展させるかたちで、2023年2月11日にフランス近世の〈知脈〉第9回研究会にて「ラムスと『ポール=ロワイヤル文法』─「デカルト派自由学芸改革」の文脈において─」と題する口頭発表を行なった。ここでは、ラムスによるフランス語文法書(16世紀後半)を批判的に継承したとされる『ポール=ロワイヤル文法』(17世紀後半)の特質を、その姉妹編『ポール=ロワイヤル論理学』との関係において描き出すための予備的考察を試みた。古代ギリシアから現代思想に至るまでのラムス主義とデカルト主義の言語思想の系譜を一望し、関連する具体的なテクストをとりあげ、今後の研究の大きな展望を示した。 またコロナ禍以来行えずにいたフランス出張を2023年2月半ばに実施できたことは大きな収穫であった。実質4日間ほどの出張中、17世紀フランス文学関連の講演聴講、17世紀フランス思想研究者との交流、フランス国立図書館での資料調査などを行なうことができ、短期間でも充実した滞在となった。
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