研究課題/領域番号 |
19K13139
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
中村 翠 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (00706301)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アダプテーション / 19世紀 / 小説技法 / 翻案 / 自然主義 / 演劇 / 映画 / レアリスム |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、アダプテーション(翻案)作品において、原作の物語を知らない受容者と、すでに知っている受容者の双方に対して同時に有効な語りの手法を考察することである。とくに19世紀以降の文学作品では複雑な小説技法が発展したが、こうした技法が他ジャンルへ翻案される際、どのように工夫されているのか、またそれが上記の二種類の観客に対してどのように効果をもたらすのかを探る。 本年度は、まずアダプテーション理論関連の先行研究や個々のアダプテーションのケーススタディを集めた。その上で、19世紀後半の自然主義文学が翻案されるとき、いかに演劇や映画といった翻案先の芸術ジャンルの技法を刷新していったのかを、研究書や映像資料等を調査し考察した。次に原作者自身が翻案にたずさわった場合と、原作者の死後に他の演出家や監督が翻案した場合を比較分析した。その際、原作の物語を知らない受容者とすでに知っている受容者に対して、どのような配慮がなされているか、またその配慮が時代とともにどのように変化しているかをたどった。この研究成果を論文「自然主義文学のアダプテーションー舞台、そして映画へ」にまとめ、出版が予定されている論文集『レアリスムの交叉と越境』に投稿した。 なお、本課題の問題意識は、2016年に採択された科研費若手B「自然主義文学のアダプテーション:「予告」と「布石」による語りの戦略」の研究課題を遂行する過程で生じたものであるため、上記の論文には連続した二つの研究課題の議論が包含されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度前期は育休を取得していたこと、また同年度後期はCovid-19の感染拡大により、学会やシンポジウムの中止、大学・図書館等研究機関の閉鎖が相次いだことから、研究再開が遅れた。ただし先行研究や資料の調査は続行しており、論文についても執筆中であるため、今後は順次研究成果の発表が可能となる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はフランス自然主義文学の演劇・映画アダプテーションという文脈で研究を遂行してきたが、今後は視野をもう少し広げる。まずはオペラ・バレエなど演劇以外の舞台芸術にも対象を広げる。その上で、原作の物語をすでに知っている受容者と知らない受容者という二種類の観客をターゲットとした工夫という点において、より踏み込んだ議論を試みたい。さらに余裕があれば、他の地域あるいは時代の文学作品のアダプテーションも研究対象に含めていく。これらの成果をまとめ、もし今後の情勢によって出張が可能になった場合は、米国アラバマで行われる予定のAIZEN国際学会などに研究発表を投稿する。また研究成果を論文として執筆し、国内外の学会誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はCovid-19の感染拡大により、長期休業期間中に渡航を予定していた国立フランス図書館 、シネマテーク図書館等での資料調査は取りやめた。また、国内外での学会やシンポジウムもキャンセルが相次いだり、オンラインに切りかわったりしたため、予定されていた旅費が発生しなかった。よって、オンラインや注文で入手できる書籍・映像資料を対象に調査をおこなう方針に切り替えた。 今後は、Covid-19終息の目処がたち次第、出張をともなう資料調査・発表活動を再開する予定であるが、終息の兆しがみえず長期戦となる場合には、国内外から可能な限り書籍・映像資料を取り寄せる計画である。この場合、高値で売られている絶版・廃盤の資料等を購入する物品費や、輸送にかかる通信費などが旅費にとって代わることになる。
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