本研究では西欧詩の翻訳と日本近代詩の相関に焦点を当て、翻訳家堀口大學の活動を中心に大正・昭和初期の翻訳詩を分析した。研究期間全体を通して国内外で積極的に研究発表を行い、研究者と活発な議論を交わしてきた。大きな成果としては2023年1月に学術書(単著、『異国情緒としての堀口大學―翻訳と詩歌に現れる異国性の行方』)を出版することができた。翻訳者としてフランス近代詩を多く日本語に翻訳し、雑誌に紹介した役割と共に、堀口の歌人・詩人としての創作活動を学術的に検証した。堀口の詩歌や随筆が翻訳に与えた影響(文体、繰り返し用いられる単語、テーマ性など)を明らかにした。出版後の振り返りから、堀口とフランス近代詩との関係について、他の芸術分野も含めたより詳細な考察の必要があると考えた。堀口は多くのフランス近代詩を翻訳したが、それらが大きなモダニズムという枠組みで堀口が若い世代の詩人たちに与えた影響について詩誌(『パンテオン』、『オルフェオン』、『詩と詩論』等)を中心に分析を行った。また2024年はアンドレ・ブルトンが『シュルレアリスム宣言』を発表してから100年となるため、関連の国際学会等が国内外で予定されている。それらに積極的に参加することを考え、2023年度については堀口の翻訳詩から若い世代への影響に焦点を当てて研究を進めた。シュルレアリスム関連の学会への参加申し込みの準備や、刊行を予定している学術書(共著、英語)の原稿の作成等を行った。堀口の翻訳詩が若い世代にどのように受容されているかを明らかにするために、詩誌(『詩と詩論』を中心に)に掲載されている評論文や翻訳紹介を手がかりに分析を進めた。また堀口が翻訳した詩人・詩と若い世代が焦点を当てた詩人・詩がどの程度の割合で共通しているかについてもリストを作成した。本調査の結果は刊行を予定している学術書(共著、英語)に活用される予定である。
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