本研究では、主として印刷・出版物に使用された紙(料紙)について、1.紙の原料となる植物繊維、2.印刷適性などの機能を向上させるために添加された填料、3.紙質向上や装飾のために施された加工、以上3点を明らかにする料紙観察という方法について調査・研究を行い、2023年度は以下の通りの成果があった。 1)2023年度慶應義塾大学文学部「文献学の世界:書物を/が構成する宇宙」(極東証券寄付講座)に招聘され、「料紙観察~紙のミクロコスモスを探る~」という内容で本研究の主眼である料紙観察の手法と料紙観察を行う意義について講義した。この内容は2024年7月に報告書として刊行予定である。 2)陳剛『中国手工竹紙制作技芸』(中国語)の翻訳および日本語資料部分の翻字を行い、2023年10月に『中国手漉竹紙製造技術』(科学出版社東京)として刊行した。 3)本研究に基づいた論考「料紙からみた文学作品」を日本文学協会刊行の月刊学術誌『日本文学』へ執筆し、2024年7月に刊行予定である。 書物を構成する「紙」という物質自体が持つ情報に着目し、その情報を発信・活用して紙という素材に対する社会的認識の向上を図るという目的で、2019年度より科研費研究課題である上記研究テーマ(19K13149)に取り組んできた。2023年度には上記以外にアメリカのワシントン大学図書館が所蔵する資料の紙質調査に関して、本研究の調査手法を活用することで協力した。 2019年度より実施してきた本研究は、当初日本の料紙を研究対象としていたが、中国で生産された竹紙へと対象範囲を広げた。また機動性のある機器を用いる観察方法を構築したことで海外での調査研究へも協力することができた。COVID-19の影響により、当初の研究目標は変更を余儀なくされたが、インターネットを通じての会議参加や調査研究情報の相互提供により、期待以上の成果が得られた。
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