指示詞は常に複数の代替形を持ち複数の統語範疇にまたがる体系をなす。本研究では、自然談話データを用い、指示詞が持つ体系性が、人のコミュニケーションの基盤となる共同注意の成立にいかに寄与しているのかを分析した。 結果、(i)成人間の共同注意場面では、話し手は聞き手の注意状態を推定し、共同注意の確立と会話の進行の両方を考慮しながら、指示詞の直示素性・質的素性・統語素性を切り替えていること、しかし(ii)人と犬のやりとりでは、直示素性の切り替えは生じるものの、質的素性・統語素性の使い分けは起きないことを示した。この分析から人が共通理解に至るために必要な言語の体系性とは何かを明らかにすることができた。
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