昨年度は、通常の主題文とおけるはだしの主題文を、副助詞の「は」の有無に焦点を置いて検証したが、今年度はその類似点が格助詞の有無にも見られるのではないか、と着想した。研究の結果、格助詞の「を」、「が」には文法機能以外に談話効果や情報構造を表す性質があること、それらに対して両者が持つ共通点と相違点が明らかになり、「格助詞の残留と談話効果―情動抑制句の削除による統語的派生―」として京都ノートルダム女子大学の『研究紀要』(第54号)として発表した。この論文では、述語の省略が起こった文を対象として日・英語の対照研究を行った。英語における“why”と“what for”を用いた理由疑問文と、日本語における「なぜ」、「何を」を用いた理由疑問文を考察し、日・英語に共通した談話効果の違いがあることを確認した。これを基に、上述の談話効果や、話し手の情動といった文法外の情報を、格助詞が担っているという結論に到達した。 本研究は、「は」を伴う主題文、国語学者の三上が着眼したはだしの主題文、英語をはじめとする諸言語の主題文を生成文法理論の立場から比較・考察することに端を発した。はだしの主題に当たる名詞句が例外的格標示構文における対格主語であるという仮説が実証されたことから、格助詞そのものが持つ、文法機能以上の効果に着目した。この結果、「を」が旧情報に基づく意外性を、「が」が新情報に基づく意外性といった情動を内在的に持っていることが判明した。 本研究では副助詞の「は」、及び「は」が省略されたとみられる例を対象にその統語的性質を追究したが、波及効果として格助詞が内在的に持つ情動、及びそれが運用される際の談話効果や情報構造を明らかにすることができた。言語学の伝統として「を」と「が」は対立する文法要素として取り上げられてきたが、本研究によって両者が文法機能以外の点でも好対照を成すことが発見できたと言える。
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