研究課題/領域番号 |
19K13160
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
仲尾 周一郎 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 講師 (10750359)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アラビア語 / クレオール / ピジン / 再語彙化 / 辞書 / ヌビ語 / 東アフリカ / 社会言語学 |
研究実績の概要 |
本年度年度前半期には、前年度までの事前研究の成果に基づく研究発表を、日本アフリカ学会年次大会(京都、5月)、国際アラビア語方言学会(ジョージア・クタイシ、2019年6月)ほかで行った。これらは、アフリカにおいて非アラブ社会(スーダン=ベルト地域)において使用されてきた、これまでに言語学的研究が行われていないアラビア語諸変種に関する分析であり、本研究の主対象である東アフリカ・アラビア語クレオールとの異同について明らかにしている。 2019年8-9月にケニア共和国ナイロビにて、①ヌビ語に関する語彙調査、②ヌビ語教材開発のための基礎資料収集、③ナイロビにおける多言語使用実態に関する社会言語学的調査を行った。このうち、①と②の成果は、オンライン(https://sites.google.com/view/nubi-dictionary)にて閲覧可能な形で随時公開を進めつつ、現地社会からのフィードバックを受けつつ開発を進めている。 本年度後半期には、調査成果③に基づき、ナイロビ(かつケニア広域)で話されるスワヒリ語変種とヌビ語の構造的類似とその借用関係、さらにこれらの言語に英語が加わった言語レパートリー (language repertoires) が頻繁にコードスイッチングする都市言語の性質とその接触言語学的解釈について、ドイツで行われた国際ワークショップ(11月)および国内研究会 (2020年2月) にて研究発表した。さらに、これらに加え、2度の国内研究会においてヌビ語や関連するアラビア語諸変種の統語構造(焦点構造および受動相当文)に関する分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現状では、おおむね当初の計画通り年に1度のフィールドワークを遂行し、その成果を可及的速やかに分析・公開しており、本研究の初期段階として十分進捗しているといえる。 本研究では、ヌビ語辞書の作成は、言語コーパスを元に語彙を抽出するのではなく、一語ごとに文法的制約や用例の確認をとりつつ調査を行っているため、現段階では語数は2000語以下に留まっており、引き続き同水準の調査を行う必要がある。 また、当初の計画に加え、本年度の調査では調査協力者との意見交換の上、ヌビ語を話さない世代をターゲットとするオンライン教材作成(タイトル:Beginner’s Nubi)を開始した。現段階では、この教材作成のための素材は大部分収集が完了しており、今後はこの成果をまとめつつ、本研究の主目的であるヌビ語辞書やアラビア語クレオール史研究へと還元する必要がある。 さらに、調査上の必要から、ナイロビ社会における多言語使用について、スワヒリ語変種等についての基礎調査と研究発表を行った。この結果、ヌビ語研究が単にアラビア語研究だけでなく、スワヒリ語研究にとっても重要であることが示された。このため、当初予定よりもやや大きい成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大、および2020年度末に予定されている所属先のキャンパス移転等のため、2020年度はフィールドワークを行うことが極めて困難である可能性が高い。現地社会ではインターネット環境等も不十分であるため、オンラインでの調査も不可能であると判断している。 現時点では、2019年度までの調査で得られたデータをもとに、引き続きオンライン辞書・オンライン教材の作成と、ナイロビにおける多言語使用の実態に関する論文作成を行うこと(およびその論文を含む出版に関する編集作業)を予定している。 また、2021年度以後に重点的に進める予定であった再語彙化(relexification)に関する理論的研究についても、文献をもとに推進する予定である。
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