研究課題/領域番号 |
19K13160
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
仲尾 周一郎 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (10750359)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ピジン / クレオール / ナイル・サハラ語族 / バリ語 / ジュバ・アラビア語 / ヌビ語 / バイリンガリズム / 記述言語学 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、国外での調査が実施不可能であったため、日本国内でジュバ・アラビア語(アラビア語クレオール)およびバリ語(ナイル・サハラ語族)の対面での言語調査を行った。本調査により、両言語に加えヌビ語(アラビア語クレオール)・スワヒリ語の4言語対訳テクストのコーパスが得られた。このテクストの分析を進めるため、特にジュバ・アラビア語とバリ語の文法構造について詳細な調査を行った。特にバリ語動詞の形態統語構造の概要については基本的な記述の目途が立っており、令和4年度に研究発表を予定している(採択済み)。 本年度には本課題研究に関連して、9回の研究発表と7本の論文・その他記事により以下のような成果を公表した。(1)本課題での調査で得られた対訳テクストなどに基づき、アラビア語ピジン・クレオールとその話者の第1または第2言語についての双言語記述(bilingual description;バイリンガル話者の話す民族語と共通語の接触状況に焦点を当てた文法記述)を進め、具体的な文法接触現象を同定した。(2)ヌビ語の音調(トーン)について記述し、先行研究の不備を研究手法の構造的問題から読み解いた。(3)ジュバ・アラビア語を中心に、ピジン・クレオールを生成し、かつ維持してきたアフリカ社会の言語的エトスを言語現象と関連付けて論じる方法論について論じた。(4)非クレオール・アラビア語についての記述的研究(文語アラビア語の喉頭素性・焦点/モダリティ構造、ベニシャングル・アラビア語のドキュメンテーションと転写法の検討)を進めた。(5)ナイル・サハラ語族の100言語前後について記述の資料収集・サーベイを行い、その破裂音体系・文法関係標示・動物語彙・植物語彙の多様性・均質性を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初より国外調査ではなく、国内での対面調査やオンラインでの研究発表を計画したため、比較的順調に調査・研究発表を行うことができた。本年度の重要な発見として、先行研究からはバリ語の動詞構造は比較的単純であることが予想されたが、実際には極めて複雑であることが明らかになった。この結果、対訳テクストの文法・語彙注釈の完成は期待より大幅に遅れているが、実際の学術的成果としては十分なものであったと自己評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点では国外調査の見通しが不十分であるため、引き続き主として日本国内の話者に協力を依頼し、ジュバ・アラビア語、バリ語、ヌビ語の調査を行うことを予定している。 本課題研究の当初計画どおりのヌビ語辞書作成は困難であるが、これまでに得られたデータについては整形し、構築済みのウェブサイトにて公開することを目標とする。同時に、ヌビ語・バリ語・ジュバ・アラビア語の対訳テクストについても文法・語彙解説つきで同ウェブサイトで公開することを目標とする。 また、ジュバ・アラビア語の脱クレオール化への抵抗をめぐる問題について、本年度までに行ってきた議論を発展させた論文を令和4年度末までに完成させることを目標とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度には新型コロナウイルス感染拡大の状況の見通しがつかず、海外渡航可能な機会を見計らう必要があり、予算の執行のスムーズな計画が困難であったため、多額の未使用額が生じた。本年度には、引き続き海外渡航が困難であることを予め想定し、令和2年度に生じた繰り越し分の予算を令和4年度中までに安定的に執行可能な予算計画を立てて実施している。令和4年度への繰り越し分については、本年度と同様に主として調査謝金・物品費として使用する予定である。
|