研究課題/領域番号 |
19K13160
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
仲尾 周一郎 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 准教授 (10750359)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アラビア語 / ナイル・サハラ語族 / 接触言語学 / 記述言語学 / 社会言語学 / ピジン・クレオール |
研究実績の概要 |
本年度は、アラビア語ピジン・クレオールとそれに関連する諸言語について、接触言語学・社会言語学・記述言語学・歴史言語学・地理言語学などの方法をもちいた多岐にわたる分析および調査を行った。 2022年5月には、アラビア語ピジン・クレオールの重要な基層言語であるバリ語の動詞体系の記述言語学的・歴史言語学的分析について、日本アフリカ学会にて研究発表を行った。この成果を受け、さらに同年9月-10月には国内にてバリ語に関する追調査を行った。 2022年10月には大阪大学にてエチオピア諸語に関する国際ワークショップを開催し、エチオピアで話されるアラビア語接触変種、ベニシャングル・アラビア語に関する接触言語学的分析に関する研究発表を行った。また同月には、南スーダンで話されるアラビア語ピジン、ジュバ・アラビア語におけるメタ言語活動について分析し、「脱規範的」とされるピジン・クレオールのような言語における規範の表れについて記述言語学的に論じる研究発表を行った。ほか2度の研究会において、文献調査に基づきナイル・サハラ語族のキョウダイ名称体系(99言語)および数詞体系(82言語)に関する地理言語学的分析について研究発表を行った。これらに加え、2022年8月-9月には日本言語学会主催の夏期講座において「社会言語学(中級)」として、本研究課題による様々な研究成果を踏まえたアラビア語ピジン・クレオール研究を主題とする講義を行った(同セミナー・ハンドブックとして出版)。 この他、アラブ地域における社会言語学的概況に関する事典項目1件、周縁的アラビア語にみられる喉頭化音に関する接触言語学的・歴史言語学的分析に関するプロシーディング論文1件が出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も、前年度に引き続き海外でのフィールド調査を行うことが不可能であったため、本課題の主眼であったヌビ語(アラビア語クレオール)の語彙調査自体については進めることができなかったが、これまでに収集したヌビ語を含むアラビア語ピジン・クレオールおよびその基層言語であるバリ語(ナイル・サハラ語族)、また歴史的に関係が深いアラビア語接触変種であるベニシャングル・アラビア語に関するデータ分析を進めることができた。特にバリ語については、その研究が開始して以来1世紀半の間未解明であった動詞形態論上の一特徴について、国内で収集した実証的なデータに基づき分析を行い、類型論的にも珍しく理論的示唆に富む現象(有標性パラドクスを含む示差的目的語標示)であったことを明らかにした。 また、これまでの本研究課題の成果を日本言語学会夏期講座の講義として一般に還元する機会を得たことで、期待以上に俯瞰的かつ多様な理論的視座を取り入れた考察を深めることができた。 2023年3月には本研究課題と関連が深い別の科研プロジェクトにより、英国オックスフォードおよびロンドンにて植民地期東アフリカおよびナイジェリアにおけるアラビア語接触変変種等に関する文献調査を行ったが、次年度以後の本研究課題にとっても重要となる発見が得られている。 以上より、今年度までに本研究課題の主題であったアラビア語ピジン・クレオールの歴史的動態に関してはデータの収集・分析の両面で妥当な進捗があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、特に本年度研究発表を行ったアラビア語ピジン・クレオールに関する規範と言語動態、ベニシャングル・アラビア語に関する接触言語学的概略、バリ語動詞形態統語論に関する論文をそれぞれ完成させることが第一目標となる。 2023年8月-9月にはケニア・ナイロビで開催予定のナイル・サハラ語族の諸言語に関する国際学会にてバリ語(ナイル・サハラ語族)の動詞形態統語論に関する研究発表、さらにそれに合わせてナイロビにて短期のヌビ語(アラビア語クレオール)の言語調査を予定している。なお、この調査を含むヌビ語に関する調査結果については、オンライン辞書およびオンライン言語コースとしてデータを整形し、次年度中には完全公開することを目標とする(現時点では暫定版を公開中)。 これに加え、報告者が本年度英国で収集した植民地期アフリカにおける文語としてのアラビア語接触変種に関する研究発表、バリ語およびアラビア語における名詞類の形態論に関する研究発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により前年度までに引き続き本年度夏期にケニア・ナイロビでのフィールド調査を実施することができなかったため、次年度夏期にこれを実施する。さらに、これに合わせて次年度にナイロビで開催予定の国際学会に本研究課題に関連する研究発表を応募し採択されたため、これを実施するため。現時点では旅費が未確定であるが、残額があった場合はそれを有効活用し国内でのバリ語調査あるいは文献収集を行う。
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