研究課題
本研究はベラルーシ共和国でのフィールドワークを基盤とするが、2020年夏のベラルーシ大統領選挙後の不安定な政治情勢に加え、コロナ禍の渡航制限によって今年度は現地での言語資料収集が出来なかった。このため日本国内からオンラインにて現地の協力者たち(ネイティブスピーカー)から言語資料の提供を適時お願いし、安全な頃に現地で収集した資料と合わせて比較分析する作業を行うこととした。しかしながら研究対象の方言の話者で調査に最も協力的であったロマの一族の母子がCOVID-19によって亡くなるという不幸に見舞われる。残された子孫はロマニ語を話さないため、二人の死を境に一族から方言が完全に途絶えた。一族がかつて話していたロマニ語を証明するものはこれまで収集した言語資料のみとなる。これら言語資料の内に児童文学『不思議の国のアリス』のロシア語からロマニ語への部分訳があるが、これは調査対象の一族から失われた方言を端的に示し、かつ他のロマニ語方言との比較に適した貴重な資料となった。翻訳者は訳半ばで他界したが、翻訳を終えた一部の分析をルーマニアの学会で発表し、国際学会誌にロマニ語の原文を添えて掲載できたことは一つの成果である。ベラルーシのロマニ語方言は言語資料自体が少なく貴重であるため、これを以って世界のロマニ語研究に貢献できたことを喜ばしく思う。唯一の後悔は翻訳文を翻訳者に朗読してもらわなかったことである。日常会話の録音はあるが、このテキストの音声資料がない。
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Cultura si comunicare 8 MEDIERE CULTURALA. TRADUCERE, INTERFERENTE, INVATARE, Bucuresti: Editura Universitara
巻: 8 ページ: 45-55
10.5682/9786062813895