研究実績の概要 |
本研究は、音象徴(音が意味やイメージを持つという現象)の観点から、「赤ちゃん」のイメージ、あるいは「大人」のイメージを持つ子音が存在するかどうか探求する。子どもの母語獲得において、子音を獲得する順序は概ね決まっている。例えば、両唇音([p, m]など)は比較的獲得が早いが、[s]などの摩擦音は調音方法が難しいため、獲得が遅い。本研究では、獲得の早い子音は「赤ちゃん」のイメージを持ち、獲得の遅い子音は「大人」のイメージを持つという仮説を立て、日本語・英語・中国語・韓国語の4言語を対象とした実験検証を行う。各言語によって両唇音の目録や調音方法は異なるため、音象徴のつながりの普遍性と言語個別性の発見が期待できる。
本年度も「赤ちゃん」のイメージと結びついていると考えられる「やわらかい」イメージと「かわいい」イメージを取り上げ、各言語の母語話者を対象とした実験的検証を継続している。日本語では、両唇軟口蓋音を含む両唇音[p, b, m, <f>, w]が「やわらかい」イメージと「かわいい」イメージをそれぞれ喚起することがわかった。英語では、唇音[f]を除く、両唇音[ph, p, b, m, w]がそれぞれ「やわらかい」イメージと結びついていたが、「かわいい」イメージと結びついているのは周波数の低い子音[b, m]であるという実験結果を得た。これらの結果をまとめ、さらに音韻論における調音場所の表示についての議論も加えた論文を出版した。 また、中国語では、[b]を除く唇音[ph, f, m]がそれぞれ「やわらかい」イメージと「かわいい」イメージを喚起することがわかった。韓国語では、[p, p’]を除く[ph, m] がそれらのイメージを喚起することがわかった。以上の4言語の結果の類似点と相違点をまとめた論文は現在投稿中である。
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