研究課題/領域番号 |
19K13170
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
大塚 生子 大阪工業大学, 工学部, 講師 (80759027)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イン/ポライトネス / 周縁化 |
研究実績の概要 |
人々がことばを使っていかに人間関係を構築しているかを明らかにするのが広くイン/ポライトネス研究の課題であるが、本研究ではその中でも特に、ママ友という多くの配慮が必要な関係を素材とし、彼女らがどのように他者を周縁化(仲間外れ)していくのかを明らかにすることを通して、利害・関心や感情が人間関係構築のための言語的交渉にいかに影響を与えているのかを、イン/ポライトネス研究の枠組みに取り入れることを目的としている。 本年度は主に、理論面での検討を行なった。研究計画にも記載の通り、人間関係構築の姿を明らかにするためには、従来のような発話行為などの言語学理論にのみ依拠するのではなく、相互行為の背後にある社会的背景や人々の心理状況を考慮する必要がある。本年度は特に、人間関係の周縁化の根底にある「好き・嫌い」や「気に入る・気に入らない」に関連する「何がポライト(肯定的に評価される)で何がインポライト(否定的に評価される)と評価されるのか」の原理を明らかにするために、社会学及び文化人類学における「贈与・交換」についての検討を行なった。 肯定的に(かつ意識的に)、あるいは否定的に評価されるには、「デフォルト(その状態が当たり前)」や「期待」からの逸脱を考える必要がある。ある相互行為が「交換」と見なされていればそれはどれほど言語形式が丁寧であってもポライトとは評価されず、反対に「交換」以上の「贈与」部分が認められればポライトと評価される。そして受けた贈与に対する返礼を行うことで、好意の連鎖が発生すると考えることができる。社会学・文化人類学におけるこれらの知見はコミュニケーションにも通底するものがあると考えられる。 これらの検討結果は次年度以降に公表していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来の予定では、課題開始後の2年でママ友らの会話データを記録・収集することにしていたが、新型コロナ流行の影響により、新たなデータを収集ことが困難な状況が続いている。 昨今は友人同士でも、直接会って話すのではなくオンラインでのミーティングで代用することが増えているということだが、従来対面会話時に人々が自然と行なってきた割り込みや相槌、同時発話などはオンラインで完全に代替できるわけではない。これらの会話における「小さな」ムーヴから普段我々が得ている情報は決して「小さく」はなく、むしろ例えば1秒未満の会話の「間」から我々は多くの推論を働かせている。 しかしオンライン上のコミュニケーションでは経験上必ずわずかな(時にかなりの)タイミングのずれが生じており、また技術的な問題か同時発話はスムーズに音声化されないようである。従ってオンライン上で行われるコミュニケーションには対面とは別のものがあると考える必要があり、対面での会話を依頼することが困難であるからといってオンラインでの会話を依頼して代替するに至らなかった。 このことにより分析データが不足しており、当初の計画通りに研究が進行していないというのが現状である。 一方で「研究実績の概要」にも記載の通り、理論面での検討は幅を広げている。対人関係の構築は従来のように発話行為などの言語理論だけで説明できるものではなく、より広い枠組みが必要となる。人間関係の背後にあるものとして検討する必要のある社会学、社会心理学や、コミュニケーションの原理のヒントとなる文化人類学などの知見の導入を行う段階まで理論面での準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は対面コミュニケーションにおける会話データの分析を前提としているため、データ収集が必然的にコロナの状況に大きく影響を受ける。研究が計画通りに進行する(すでに収集の遅れは否めないが)かどうかは社会状況に依存しており、状況の改善が見られるようであればなるべく早い段階で会話データの収集・分析を続行したいと考えている。 しかしそれが困難な場合には、雑誌やオンライン上のフォーラム等を一次資料とするか、あるいは過去に収集済みのデータについて、新たな観点からの検討を行うことになり、どの時点でそちらへ切り替える必要があるかの判断は現段階ではつかない。 従って状況の目処が立つまでは、本年度の理論的検討をベースとしたイン/ポライトネスに関する主に理論面での新たなアプローチについての成果発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために予定していた会話記録が行えず、会話記録協力者への謝礼、及び記録データの文字化にかかる費用が使用できなかった。また、海外出張・国内出張もオンライン開催となったために旅費として計上していた予算についても使用できなかった。 次年度以降の論文掲載や出版にかかる費用、及び学会参加費で使用する。
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