イン/ポライトネス研究は近年、広く対人関係の構築・維持・崩壊にまつわる人々の言語実践を取り扱う分野へと発展してきている。本研究ではママ友という、相互行為において多くの配慮が必要となる人間関係を素材とし、利害・関心や感情が人間関係構築のための言語的交渉にいかに影響を与えているのかを、イン/ポライトネス研究の観点から明らかにすることを目的としている。 2023年度はママ友間の対立的相互行為において、彼女らが「親しさ」を担保に、内容面・言語形式面で互いの親疎の距離を調整することによって攻撃を行なったり、自身の品行を維持したりする複雑なフェイスワークを展開している様子を取り扱った。また、対立的フェイスワークの別の事例として「マウンティング」を扱う研究も行った。さらに近年イン/ポライトネス研究でもっとも重要とされている要素の1つである「感情」をテーマとして、談話分析を通して今後のイン/ポライトネス研究における感情の扱いに対する提言を行った。以上の成果発表として、論文集を2冊(論文3本「ママ友の対立におけるフェイスワーク」「マウンティング」「イン/ポライトネスと感情」)を上梓した。そして、それまでのイン/ポライトネス研究の潮流を日本語で概観した上で、実際に談話的アプローチを用いたママ友の対立場面の談話分析を行うという、本研究課題の総括的論考も上梓した。また、国際学会でも成果発表を行い好評を得た。これらの論文は、国際的には近年中心となっているが日本ではまだ十分に取り入れられていない談話的アプローチを日本語談話に取り入れて実証的にインポライトネスを扱ったものであり、国内学界に新たな風を取り入れ、国際的にも日本語談話という新たな素材を提供する重要な役割を担ったと自負する。
|