研究課題/領域番号 |
19K13177
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
朱 薇娜 名古屋大学, 人文学研究科, 博士研究員 (20837512)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日中同形類義二字動詞 / コロケーション / コーパス / 和語動詞 / 語彙体系 / 意味対応関係 / 認知意味論 / 漢語動詞 |
研究実績の概要 |
漢字語彙は中国人日本語学習者にとっても日本人中国語学習者にとっても大きな利点でありながら、誤用を誘発する原因にもなりうる。日中両言語の同形類義二字動詞の意味対応関係に関する質的分析の不足に鑑みて、本研究の目的の一つは、中国人日本語学習者と日本人中国語学習者を対象に、混同されやすい同形類義二字動詞の有益なコロケーション情報を提供することとする。また、日中同形類義二字動詞の意味対応関係のバリエーションと対応する和語動詞の意味との相関性を探究することをもう一つの狙いとする。以上の目的を実現するために、本年度は、次の3つの方面から量的な調査及び質的な分析を行った。 (1)中日新聞対訳データベースや辞書などをもとに、日中同形類義二字動詞をピックアップし、さらにBCCWJ、NLT(日本語のコーパス)とCCL、BCC(中国語のコーパス)を利用し、共起する名詞に関するコロケーション情報等を抽出した。現段階では100語余りの動詞に関するコロケーション情報を整理した。 (2)動詞と共起する名詞グループに対し、意味に基づくカテゴリー化を試みた。具体的には『分類語彙表』の名詞の意味体系を参考にした上で、例文の内容(が表す事象)や例文の出典により、それを含む事象タイプを表すラベルを設定した。 (3)日中同形類義二字動詞の意味領域を対照した。〈日本語の意味領域が広い〉〈中国語の意味領域が広い〉〈意味領域が部分的に重なる〉〈意味領域がほぼ一致している〉という4分類に基づき、グループ化した。その結果、〈中国語の意味領域が広い〉グループに該当する動詞は和語動詞に対応する部分があることもあり、意味拡張のバリエーションが豊富でコロケーションのパターンが多いという傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本語の動詞と名詞の共起関係は、NINJAL-LWP for BCCWJ等の検索システムを利用すれば一目瞭然に表示されるのに対して、中国語ではこのような便利な検索エンジンがまだ開発されていない。基本的に動詞と名詞の共起関係の抽出は人手により行わなければならない。そのため、予想以上に膨大な時間がかかっている。以上の理由で、計画がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本年度に引き続き、次の3つの内容に取り組む。 ①日中同形類義二字動詞のデータベースを作成し、定量的な分析を継続的に行う。本研究の目的を達成するにはこのような地道な作業が不可欠である。 ②本研究の考察は、漢語動詞と和語動詞の意味対応関係の解明に関わっている。本年度の調査で、文体差のほかに、和語動詞と漢語動詞の細かな意味の差も存在することが分かった(e.g. 「縮小」vs.「縮める」「体をぐーっと縮めてから伸ばす」のような例が示すように、サイズの変化がない「縮める」)。この点については認知意味論の「主観化」からもアプローチできる。今後、認知意味論の知見を活かし、さらに和語動詞と漢語動詞の意味対応関係を綿密に考察していきたい。 ③中国語のデータ処理には、現時点で自然言語処理のシステムを頼りにできないため、人手による作業が大半を占め、膨大な時間を費やしている。この課題を解決するために、数多くの研究協力者に依頼するほか、自然言語処理を専門にする研究者の意見を仰ぐことで、機械による有効なコロケーション情報の抽出の可能性を模索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で海外の学会は中止となり、予定していた渡航費や宿泊費等を使わなかったため、次年度使用額が発生している。なお、購入したい海外の図書等も同上の理由で購入できない状態となり、その購入費も次年度使用額となっている。 次年度では、データベース作成の協力者への多額の謝金が発生すると予想するため、その額に充てる予定である。
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