研究課題
今年度は、計画していた脳波計測実験を2つ行った。1つ目の実験では、言語処理中に観察されるP600の大きさが、非文法的な文の出現頻度によって変化するかを見ることによって、人間の言語処理システムが柔軟な性質を持つかどうかを検討した。P600(効果)は、非文を呈示した際に、その逸脱語の呈示開始語600ms後に観察される陽性成分である。実験の結果、非文(バラを枯れた。)が正文(バラが枯れた。)と同頻度で呈示される場合、P600効果が実験中に減衰することから、適応的な性質があることが明らかとなった。また、非文の割合が正文より少ない場合には、P600効果が減衰しなかったため、実験中に変化する要因(タスクへの順応や疲労など)による効果ではないことが確認できた。さらに、意味的逸脱においては、適応が見られなかったことから、言語処理システムの適応的な振る舞いは限定的であることが明らかとなった。2つ目の実験では、filler-gap依存構築における談話の役割について検討した。実験の結果、名詞句の移動(すなわちfiller-gap依存)を動機づける文脈が存在しない場合には、移動要素から元位置にかけて持続的左前頭部陰性波が観察されるのに対し、適切な文脈が存在する場合には、持続的左前頭部陰性波が観察されなくなることが明らかとなった。この結果は、持続的左前頭部陰性波が、統語的な処理に特化した脳活動ではないことを示唆しており、言語処理システムと(作業)記憶との相互作用について知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り脳波計測実験を行い、十分な成果が得られた。
2020年度も、予定している脳波実験を行い、予測的処理における作業記憶との相互作用メカニズムについて検討する予定である。対面での脳波計測が困難な場合には代替手段として、オンラインでの行動実験の実施を検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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