研究課題/領域番号 |
19K13183
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研究機関 | 東京福祉大学 |
研究代表者 |
熊切 拓 東京福祉大学, 留学生教育センター, 特任講師 (60802387)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 言語学 / モダリティ / 談話 / アラビア語 / マグレブ方言 / チュニジア / チュニス / 口承文芸 |
研究実績の概要 |
アラビア語チュニス方言における豊富な口承文芸、主として物語文学を資料として、語順、主題化、モダリティなどについての言語学的研究を行い、語りの構造を明らかにするのが、本研究の目的である。この目的のため、言語学的調査・研究とともに、口承文芸の理解に不可欠な文化的調査も並行して行う。 研究計画初年度である2019年度では、チュニジアでの現地調査を2回行い、これまで行ってきた言語学的・文化的調査を継続した。具体的には、方言資料の調査と、口承文芸においてしばしば登場する聖者廟、ハンマーム(公衆浴場)についての文化的調査を行った。また、スーサで毎年行われている口承文芸フェスティバルの関係者と交流し、今後の更なる調査の足がかりとした。特筆すべき成果としては、語り部として活躍されている方による実際の語りを記録・撮影することができたことが挙げられる。 また、本研究の主要な資料である『アル・アルウィー物語集』全4巻について、これまで行ってきた語彙的・文法的調査のまとめも行い、第2巻まで完了した。 主たる研究成果としては、主題を持つ文が語りにおいて果たす役割を論じた論文(熊切 2019)を発表し、さらに心性与格(特別な情意を表す与格)に関する論文を投稿した。ここで扱った心性与格は聞き手に驚きを与える機能を持ち、やはり語りに関わっている。学会発表としては、アスペクト・モダリティ・談話に関わる起動動詞を扱ったもの、心性与格に関するものの2回である。 本年度は、本研究の根幹である言語学的調査・研究に加えて、現在、語り部として活動している人、および、そうした活動を支えている人々の作る「語りの文化」にじかに接しえたという点で、非常に有意義であったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、2回の現地調査により、言語学的研究のみならず、『アル・アルウィー物語集』および口承文芸を支える文化についても幅広く調査を行うことができた。特に、民間信仰、生活、語り部について写真や映像による記録を行い、チュニジアの文化について貴重な資料を蓄積することができた。また、複数の論文を執筆し、そのうちのひとつはすでに公刊された。さらに、2回の学会発表によっても研究の成果を公表しえた。こうした研究成果に加えて、次年度以降の調査に繋がる非常に有意義な現地調査を行うことができたため、本年度の達成度は十分なものであると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、①言語学的調査による『アル・アルウィー物語集』をはじめとする口承文芸のデータの収集、②本年度得られた語り部の記録を含む、これまで収集してきた語りの資料の文字化、③これらのデータをもとにしたチュニス方言の「語り」の研究の推進、④口承文芸とその文化そのものについての研究の推進、の4点が挙げられる。また、スーサで行われている語りのフェスティバルへの参加計画も進めており、実現すれば、貴重な資料・経験を得る機会となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の高い8月と12月との2回の現地調査を計画していたが、2019年12月に予定してた調査を、2020年5月の連休中に移すことにしたため次年度使用額が生じた。これを5月の調査出張費に充てる予定であったが、新型コロナウイルス感染症の広がる現状では、5月の出張を含め、2020年度全体の計画は未定となっている。
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