研究課題/領域番号 |
19K13187
|
研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
鈴木 史己 南山大学, 外国語学部, 講師 (20803886)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 言語地理学 / 漢語方言 / 漢語語彙史 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代漢語方言の広域語形分布地図と、高精細度の狭域詳細地図を作成・分析し、史的文献調査とつきあわせることで、漢語常用語彙の変遷過程及びそのメカニズムを明らかにすることを目的とする。長江下流域で方言差が大きくあらわれる語彙項目を手がかりに研究を推進し、漢語常用語彙史の解明を目指すとともに、長江下流域が漢語方言史・漢語語彙史において果たす役割についても考察する。本年度は、動詞項目を分析対象とし、「(人を)呼ぶ(call out)」(“叫”/“喊”/“謳”etc)を表す語を扱った。 「(人を)呼ぶ」を表す語形は、標準中国語でも使用される“叫”・“喊”が大勢を占め、広域地図では漢語方言全体に分布する。これらの語形は多くの方言で同時に「叫ぶ(shout)」という意味をも表す。“叫”は「(動物が)鳴く」という意味で用いられる語形でもあり、さらに「(人間、特に子どもが)泣く」という意味で用いる方言が見られる。ただし、“叫”の意味に着目して分布地図を作成すると、「(人を)呼ぶ」を表す“叫”と、「(子どもが)泣く」を表す“叫”の分布地域はほとんど重複することがなく、地理的な相補分布を示すことが注意される。語形分布地図の分析により、「発音器官で比較的大きな音を出す」という共通点をもつ、「呼ぶ」―「叫ぶ」―「(動物が)鳴く」;「(人間が)泣く」という一連の意味領域を表す語形が、相互に関連しながら分布することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
分析対象として設定した「(人を)呼ぶ」を表す語に関しては、現代漢語方言の語形分布地図の作成作業は完了しているが、史的文献調査とのつきあわせが済んでおらず、論考の完成までは至っていない。そのため、進捗状況としては「やや遅れている」と評価する。なお、本年度当初は、「(人を)呼ぶ」に加えて、「拾う」(“拾”/“撮”/“執”etc)を表す語の分析も予定していた。しかし、収集できたデータ数が少なかったこと、関連する意味領域を表す語について追加調査が必要となったことから、今後の課題とする。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、前年度に計画していた「(人を)呼ぶ」を表す語の論考を完成させる。そのうえで、「風が吹く」(“刮風”/“吹風”/“起風”/“発風”etc)、「雨が降る」(“下雨”/“落雨”/“盪雨”/“做雨”etc)をとりあげ、動詞と統語構造を分析する。両者の構造は「風」「雨」を表す名詞成分と、「吹く」「降る」意味を表す補助動詞成分から成る。名詞成分は方言差が少ないが、動詞成分のバリエーションを考察する。また、現代の形式は述語が主語に先行する「存現文」の典型例として知られるが、上古漢語では“風”“雨”が名詞と動詞の機能を兼ねていた。それがどのような過程を経て現代漢語にみられる形式へと変化したかも分析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、各種の学会や研究会がオンラインで実施され、中国での方言調査も実施できず、出張費が発生しない場合が多かったため、次年度使用額が生じた。翌年度は、書籍の購入費にあてるほか、状況が許せば対面での学会参加や、方言調査を計画したい。
|