研究課題/領域番号 |
19K13191
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
朱 冰 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (30827209)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国語 / 談話標識 / モダリティ |
研究実績の概要 |
2020年度は、法助動詞(節)から談話標識への転成について、法助動詞“当”と指示詞“然”の組み合わせに由来した“当然”の談話機能を中心に考察を行った。先行研究では“当然”は、「確実性(certainty)」を表す副詞の用法の他、補足説明、話題転換、譲歩など多様なテキスト機能を果たしていると記述されてきた。本研究は、そういったテキスト機能の存在を認めつつ、自然会話における“当然”の振る舞いに着目し、その相互行為上の機能を分析した。分析の結果、“当然”は話し手と聞き手のフェイスへの侵害を和らげる役割があり、face-threat mitigatorという機能を認めるべきである。つまり、“当然”は、話し手と聞き手の社会的・相互行為的な関係を調節することができる。 これまで注目してきた法助動詞(節)に由来した談話標識(例:“応該説”、“可以説”、“要知道”)は、書き言葉の談話に多用され、相互行為上の機能に対する分析も欠けていた。話し言葉に頻繁に使用される“当然”に対する分析を通して、テキスト構成上の機能のみならず、相互行為上の機能も視野に入れ、モーダル機能と談話領域との関連性についてより全面的に認識できるようになったと考えられる。 さらに、構文文法の観点から、[法助動詞+α]パターンの談話標識の構文ネットワークに新しいメンバーを加えるようになり、構文ネットワークの全貌を明らかにするためには、重要な一歩を踏み出したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はこれまでの研究成果を材料にし、意味論・語用論と言語類型論とのインターフェースに関する概説論文を執筆した(2021年に出版予定)。2019年度の研究成果の一部も関連の国内学会で発表できた。現在、“当然”の談話機能に対する分析をまとめ、論文を執筆しているところである。おおむね順調に進んでいるが、2020年度に開催予定の国際構文文法学会は新型コロナウイルスの影響で延期され、採択された論文が発表できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はこれまでの分析結果を総合的に考察し、モダリティが複文(節連結)・談話の領域に拡張する要因を追究する。具体的には、次のような問題に取り組む。(i) 似ている意味機能を持つ接続詞・談話標識と比べ、モダリティ表現に由来するものはどのような特徴を持っているのか;(ii) 接続詞・談話標識への転成に関して、他言語と比べて中国語のモダリティにはどのような言語類型論上の特徴が見られるのか;(iii) モーダル機能・節連結・談話構成の間にどのような認知的・語用論的な共通基盤が存在しているのか。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年に発表を予定していた国際学会が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されたためである。2021年度は、新型コロナウイルスの感染状況を確認しながら、他の学会での発表を計画するものと考える。
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