研究課題/領域番号 |
19K13199
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
幸松 英恵 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (10711525)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ノカ / 発見の文 / 情報受容の文 / 言語変化 / 近世後期江戸語のノダ / ノダの通時的用法変遷 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はノダ系推論表現の全体像を明らかにすることであり、1年目から2年目は共時態研究を、2年目から3年目にかけて通時態研究を行う予定であった。実際に研究を始めると共時態のありかたについて説明するためには用法の変遷を明らかにする必要があり、局面によって歴史的な経緯も見ながら研究を進めていった1年であった。 共時態研究として、疑問文ではないノカ文(発見を表すノカ文)の用法を明らかにした。ノカの疑問用法はこれまで多くの研究で取り上げられていたが、発見、納得を表すと言われるノカについては疑問助詞のカの研究の一部で扱われているケースが多く、これを主要な目的として論じた研究はほとんど見られな買った。用例調査の結果、「ーカ」(お前も来たか)で発見を表す文と比較して、「ノカ」(お前も来たのか)で発見を表す文の方が、「ノ+カ」(=トイウコトカ)形式になっていることで、情報受容に際しての現場性が後景化し、分析性が前景化するという意味的な特徴を指摘した。同時に前接する品詞に関して顕著な特徴が見られ、「お前か」という名詞文は現在でも違和感なく用いられる一方、「そうか、お前も来るか」「そうか、お前も来たか」という動詞文はある一定層の話者に限って発話される可能性が見えた。ノカ文に関しては言語変化のただ中にある可能性を指摘しつつ論考としてまとめ発表した。 同時に、改めて言語変化を見る必要性を感じたことで、ノダ系表現が頻繁に使用されるようになった近世後期江戸語資料を集め、洒落本と人情本からノダ系表現を収集した。国立国語研究所の歴史コーパスも利用したが、ほとんどの場合、一度資料を読みながら手作業で収集したので非常に時間がかかった。しかし調査から得られた成果は大きく、これまで共時態で説明がつかなかったノダ文の用法が近世後期江戸語のノダ文用法から明らかになったとして、論考にまとめ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の成果として発表できた論考は2点に止まり、論文の数から言えば少ないのであるが、今年度は用例収集などの調査をメインに行ったためであり理由が明らかである。予定とは異なっていたが、共時的な調査・分析に止まらず、通時的な調査を行うことができた。江戸語に関する文献も多く読み、コーパス調査に頼らず、実際の作品を古書店などから購入し、読み進めながら用例を収集した。これらの収集作業、分析作業に多くの時間を当てたため、成果発表にはまだ至っていないが、結果的には大きな収穫を得た。すなわち、早い段階で歴史的な用法変化の経緯について見通せたことは大きな成果であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
通時研究としては近世江戸語資料からの用例収集を続ける。明治期の資料もそろえ、用例収集と分析を行う。用法の通時的変化の見通しがたったところで、現代語の資料からノダ系の推論表現を収集し、分析を進める。 計画の変化としては今年の2月からコロナ禍による授業内容の大幅見直し、オンライン授業への対応や学生対応に追われ、研究に当てられる時間が大幅に減少してしまった。研究補助員を雇用し、研究室で研究を進める予定であったが自宅待機となったことでそれもできずにいる。2月に予定されていた研究発表会も開催されなくなってしまった。しかしオンライン授業が軌道に乗ってきたこと、対面での研究打ち合わせなどもできるようになりそうなことで、今後は再び計画に則り研究を推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
もともと学会発表を予定しており、学会参加のための旅費を計上しておりました。ところが研究の順番に変更が生じ、通時的研究の基礎的な調査に時間をかけたことで発表段階まで到達せず、旅費を使用する用途がなくなってしまいました。 2020年度も状況により学会の開催がどうなるのかわかりませんが、旅費として使用する予定でおります。 また、プリンターが経年劣化で故障しましたので、プリンターを購入させていただければと考えております。
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