現代日本語の(いわゆる)「ノダ文」については、典型的な用法であると言える「事情説明」のほか「解釈」や「発見」や「命令」など多様な用法が指摘されていた。本研究はそのうち推論に関わる用法に焦点を当て、その全体像を明らかにすることを目指していた。第一義的には現代共時態における用法の広がり、そして用法相互の関係の解明が研究の対象であったわけだが、一見バラバラに存在しているように見えるノダの多義を説明するためには通時的な用法の変遷を追う必要があるという考えに至り、途中からは近世語の研究にも着手した。 共時的な研究としては2019年度には発見を表す「ノカ」文について、2021年度には命令を表す「ノダ」について、2022年度には推論を表す「ノカモシレナイ」について著した。通時的な研究としては2020年度に「事情を表さないノダはどこから来たのか」というタイトルで論文を著し、命題内容を聞き手に披瀝するタイプの「ノダ」の出自についての仮説を述べた。 最終年度である2023年度にはこれまでの集大成として「ノダの通時的研究」というタイトルで論文を著した。通時的調査の結果、近世期江戸語の資料からは「ノダ。」という言い切りの形で出てくるのは事情説明用法であり、それ以外の推論、発見、命令などの用法は終助詞と組み合わされた形で見られた。このことから、現代語における多義的な用法はそれぞれの終助詞の機能に寄りかかっており、後にそれがノダ自体に焼きつけられた結果、現在では終助詞を伴わない「ノダ。」という形でも表せるようになったのではないかという結論に至った。この内容については2023年12月に行われた「日本語文法学会24回大会」の大会企画パネルセッション「ノダ文研究の現在地―ノダの時空間変異から見た研究の展開―」において発表も行なった。
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