本研究では、これまでアクセントの下降幅・下降位置を操作した合成音声を作成し、それを提示することで得られたWeb調査データの初期的な分析・報告を中心に行ってきた。これらの分析によりデータの全体像はある程度把握できたものの、個人差や属性差をみることはできていなかった。 そこで、今年度は多変量解析に基づく分析を行い、調査対象者である首都圏生育者にどのようなアクセント聞き取り傾向があるのかを明らかにすることとした。より具体的には、多変量解析の手法の一つであるクラスター分析を用い、回答傾向に基づく客観的な話者分類を行い、得られた分類別に回答傾向を分析していった。その結果、首都圏生育者はアクセントの聞き取り傾向として大きくは2種、細かくは3種に分かれることが明らかになった。さらに、アクセントの違いを聞き取っているとみられるタイプの中にも、細かい下降幅や下降位置の違いを聞き取るタイプと、はっきりとした違いのみを聞き取るタイプが存在することが示唆された。このことを基に、首都圏におけるアクセントの聞き取り傾向には多様性があることを指摘した。 以上の結果は、伝統的に発話調査に基づき分析が行われていた首都圏アクセントの多様性を別の面から明らかにしたものと位置づけることができる。今後は、上記によって得られた結果をより詳細に分析するため、年齢差や地域差といった属性別の分析を取り入れていく予定である。さらに、発話調査も取り入れることにより、首都圏アクセントの実態を多角的に明らかにしていくことを予定している。
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