本研究は日常言語に潜む提喩性(i.e. ことばの意味や外延が伸縮する性質)をメンタル・スペース理論によって記述し定式化した.研究期間は扱った内容に従って大きく3つに分かれる. まず,初年度(2019年度)は“N1のN2”形式の名詞句に生じる提喩,換喩,隠喩に着目し先行研究の把握とデータの記述を行った.2020年度は前年度の記述・分析をもとに,この形式の比喩について論文を執筆した(「比喩が介在した“N1のN2”型名詞句について」『語文』115,大阪大学国語国文学会,2020年).特に,この構造の主要部のふるまいに注視し,単純な統語構造の中に複雑な比喩的意味が宿ることを整理した. 次に,2021年度は課題(1)(3)(5)を統合した形で,名詞句に生じる提喩性についてメンタル・スペース理論の観点から検討し,2022年3月に論文にまとめた(「提喩性について-語用論的コネクターから提喩をみる-」『語文』116・117,大阪大学国語国文学会,2022年).この論文では,提喩と換喩の連続性と断続について新たな基礎づけをおこなった.すなわち,提喩ならではの特性は認めつつも,いわゆる「種による提喩」が換喩にかなり近い現象であることをメンタル・スペース理論を用いることで発見した. 最後に,2022年度は前年度の観点をもとに,種による提喩に照準を絞って,データの洗い直しと理論的枠組みの再構築を試みた.しかし,諸事情で研究時間が不足したために研究期間を1年延長することになった.2023年度は,前年度末に行った研究発表で指摘された内容を元に,分析アプローチを再検討し,認知バイアスや誤謬推論の観点から種による提喩と換喩の類似と相違について分析し論文を執筆した(「種による提喩は換喩なのか?-種による提喩の背景にある2種類の推論-」『文学・芸術・文化 : 近畿大学文芸学部論集 』35-2,2024年 ).
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