本研究は、漢語に連濁が起こる規則とその要因を探るものである。2021年度の研究においては、大きな成果は2つあった。 一つは、漢語「~山(さん/ざん)」の連濁規則を明らかにし、査読付き学会誌『国語語彙史の研究』41集に単著論文「字音形態素「~山(サン)」の連濁―山名の史的変遷から―」を投稿したことである。従来の研究では、山名に使われる「~山」は連濁しにくいとされているが、しかし「泰山(たいざん)」「比叡山(ひえいざん)」などのように、「~山」に連濁が起こる例外も多いことに気づいた。そこで、「~山」の連濁を歴史上の変遷という視点から考察した。その結果、連濁しないように見える「富士山(ふじさん)」「六甲山(ろっこうさん)」の「~山」は、単独でも使える固有名詞(富士、六甲)に後接し、その固有名詞を山名に限定させるために使用されていることが明らかになった。「~山(さん)」のこのような用法は接尾辞に似ていることから、本研究で「接尾辞性字音形態素」と呼んでいる。「接尾辞性字音形態素」として用いられる「~山」を除けば、「~山」は基本的に連濁するという結論に至った。 もう一つの成果は、漢語に連濁が起こる要因を考察したもので『環太平洋大学研究紀要』20号に総説論文「漢字音の連濁」を投稿したことである。連濁は基本的に和語に起こり、漢語に起こらないとされている。しかし、漢語であるにもかかわらず連濁が起こる現象がある。この現象が生じた理由は大きく3つに分けられると結論した。①鼻音の前接(古代連濁の名残)、②「並置」ではなく「修飾」により複合した2語、③似たような意味用法による濁音形の類推。 以上、2021年度における研究が順調に進んだといえる。
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