本研究は、宇久町の方言の記述を行い、日本語史研究に寄与するものである。2021年度は、新型コロナウイルス感染対策のため、実際に現地に赴いて調査を行うことはできなかった。そのため、オンラインによる方言調査を行った。 オンラインによる調査の成果を論文にまとめ、『語文研究』第133号に投稿した。論文名は「佐世保市宇久町平方言の『動詞否定形+カナ』による行為指示」である。当該地域では、目上の人に対して「電話せんカナ」(電話してください)のように、動詞否定形にカナをつけた形式によって行為指示を行う。この形式の用法や由来について考察を行った。平方言では、この「カナ」を使用し、聞き手への働きかけを弱め、配慮している。平方言には、他にも動詞否定形を用いた行為指示がみられる。今後は、平方言の行為指示表現の体系的記述を進めていく。まずは、「持って行かんネ」(持って行け)のような、「動詞否定形+ネ」を考察する予定である。この「動詞否定形+ネ」は「近所の知り合い」や「親しい友人」に用いられる形式である。 本研究では島嶼部の方言を対象としているため、感染対策にはより慎重にならなくてはならない。面接調査によって得られる成果が大きいのはもちろんだが、今年度はオンラインによる調査でも成果を出した。このことは、研究を進めていくうえで大きな進歩であるといえる。また、研究会もオンラインで参加することが通例となっており、質疑応答も活発に行っている。そのなかで、研究者間の情報交流を絶やさず行うことができた。
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