研究課題/領域番号 |
19K13213
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
坂井 美日 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 准教授 (00738916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 準体 / 名詞化 / 日本古典語 / 日本方言 |
研究実績の概要 |
本研究の研究対象は、準体(名詞化)である。方言調査と古典調査を融合するとともに、類型論の観点を導入することによって、準体現象の法則を明らかにすることを目的としている。準体の形態的標識の付与に、意味特性の階層が関与しているか否かを検証すること、および、形態面の通時的変化に、意味特性が関与した一方向性があるか否かを検証することが、当面の課題である。本研究は、その課題に取り組むにあたり、①日本語の伝統的な準体研究と、通言語的な名詞化類型論を融合させる点、②日本語諸方言のデータを効率的に分析するため、フィールド研究・文献研究・コーパス研究を駆使する点、③ 現在消滅の危機にある日本語諸方言の多様性を活かした研究を展開するという点に独創性がある。 ただ、前年度に引き続き本年度においても、COVID-19の影響を大きく受け、新規の方言調査をほとんどおこなえなかった。そのため、COVID-19以前に蓄積したデータを用いながら、そのデータの中身を精査・再検証する形で研究を進めた。本年度の成果は、執筆2件である。まず、木部暢子・竹内史郎・下地理則編(2022)『日本語の格表現』くろしお出版に投稿をおこなった。当該論文では、特に九州方言を対象とし、準体の成立および発達と密接に関わる「格」について整理をおこなった。この成果をもとに今後、格標示の使い分けと、準体の意味特性との関連を調査することで、上述した本研究の課題の検証が進むと見込んでいる。もう1件は、2021年4月現在、国立国語研究所において受理され印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先の【研究実績の概要】に詳述したように、本年度の成果は執筆2件である。本成果は、COVID-19以前に蓄積してきた方言データや資料やコーパスを用いながら執筆を進めた成果であり、その成果の発表自体は「おおむね順調に進展している」。しかしながら、計画当初には予想できなかったCOVID-19の感染拡大により、方言調査の多くを見送らざるをえない状況となった。そのため、新規のデータを当初の計画通りには得ることができなかった。新たなデータを入手することができていないという点において、進捗は「やや遅れている」と判断する。 なお、方言調査を見送った判断は適切であったと考える。方言調査はその性質上、伝統方言話者である高齢者の協力を得ながら行われる。COVID-19は、高齢者の重症化リスクが高いとされている。人を対象とする研究における倫理の観点からも、方言調査を強行せずに見送ったことは適切であったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後もCOVID-19の影響により、方言調査を延期せざるをえない状況が続く可能性がある。調査を自粛する期間は、これまでの調査の蓄積を活用するとともに、国立国語研究所「日本語方言コーパス(COJADS)」等の公開データを活用しながら、仮説検証作業を進めていく計画である。 なお今後は、ワクチン等の普及により、調査にかかる制限は緩和されるものと予想される。移動および調査協力者への面会が可能となった段階から、すみやかに方言調査を再開する。また、Zoom等オンラインも普及しつつあるため、オンラインでの調査が可能な場合は、積極的に活用してゆく。方言調査は、準体のバリエーションを見る上で重要であると考えられるエリアから優先的に再開する。具体的には、鹿児島、沖縄、島根を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大により、方言調査の多くを見送らざるをえない状況となったため、差額が生じた。調査にかかる旅費や物品費の支出予定額をほぼ使用しなかったため、予定より大幅に減る形となった。 本年度、ワクチンの普及等により、調査への制限が緩和されるものと予測される。調査協力者側の受け入れにも問題がないと判断でき次第、調査を再開し、本年度見送った旅費や物品費を使用する計画である。
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