本年度は、昨年度に続き(1)名詞および名詞由来形容詞による修飾に関わる諸現象の分析を行い、また、これまでの研究の延長として、(2)派生形容詞の名詞への転換プロセスを明らかにした。 (1)に関して、まず、英語の同格複合語(例:singer-songwriter)に焦点をあてた。他の多くの「名詞+名詞」型複合語とは異なり、同格複合語では右側の構成要素に第一強勢が置かれることが知られているが、そこには情報構造上の非対称性が関係する可能性がある点を指摘した。また、連結形(Combining Form)を含んだ派生形容詞(例:gastrointestinal)に注目し、これらは、英語の類型論的特徴からすると問題となるように見えるものの、関係形容詞(名詞由来形容詞の一種)と同様に派生されていると考えることで、実際には問題とはならないことを明らかにした。以上の例は、名詞/名詞由来形容詞が他の名詞を修飾する例であるが、さらに、名詞が形容詞を修飾する複合形容詞(例:crystal-clear「水晶のように透明な=「非常に透明な」)の分析を行った。この種の複合形容詞は英語には多く見られるものの、日本語では非常に限定されたものしか認められない。このような日英語間の違いが、名詞が持つ情報のうち利用できる情報が両言語間では異なるとする影山 (2005)の主張から捉えられる点を示した。 (2)に関して、通常、接尾辞が付いた要素は転換により品詞を変えることはできないが、派生形容詞の中には転換により名詞化ができるように見える例がある(例:daily「日刊紙」)。これらは、修飾対象の名詞とともに語彙化した後(例:daily newspaper)、短縮(Clipping)により名詞が落とされることによって名詞用法を獲得すると考えることで、例外的な扱いをせずに良いことを示した。
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