研究課題/領域番号 |
19K13222
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三浦 あゆみ 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (00706830)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中英語 / ラテン語 / 翻訳 / 言語接触 / An Alphabet of Tales |
研究実績の概要 |
当該年度では、前年度に引き続き、An Alphabet of Tales (AT)における特徴的な語彙・文法の調査を行い、その成果を論文にまとめた。語彙については、ATが初出とされるものを調べるため、前年度中に作成したリストを元に、論文を執筆することから始めた。リストには各語の品詞、語源、語形成の種類、ジャンル、AT以降の使用記録の有無、ラテン語原典での対応表現、翻訳のパターンが記録されている。分析の結果、これらの語彙はATでの生起頻度が非常に低く、後の作品でもあまり使用されていないこと、ラテン語原典での語彙をそのまま借用するよりも、当時存在した英語の語彙に基づく複合語・派生語の形成や翻訳借用が多いこと、ラテン語に由来する語彙は宗教など特定の意味領域に限られることなどの発見があった。本論文の元となる口頭発表が、9月に英国で開催予定だった中世英語英文学の国際学会に採択されていたが、コロナ禍のため学会が翌2021年度に延期となってしまった。なお、本学会は2024年度に再延期される旨、年度末になって通知があった。 文法については、代表者自身が以前研究した非人称動詞を取り上げ、特にATで初出のirkenとuggenについて、ラテン語原典との対応箇所を調査し、原典の文法からの影響の程度を分析した。結果、前年度に分析した、ATでは「まれ」あるいは「時々生起する」と先行研究で述べられている様々な文法項目と同様、ATにおける非人称動詞の用法は、ラテン語原典を忠実に訳した結果とは言いがたいことが分かった。この成果は論文にまとめ、本務校の共同研究プロジェクト成果報告書に掲載、2021年度前期に刊行予定となっている。当該年度ではまた、前年度に執筆した、who of 'which of'というウィクリフ訳聖書に頻出するラテン語語法についての論文が、海外の出版社から刊行に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、実施期間を3年とする本研究の2年目にあたり、当初の計画では、(1)関連文献の収集・講読、(2)ATの語彙・文法に関するデータ収集、(3)途中成果の口頭発表・論文執筆を予定していた。コロナ禍での例年とは異なる学内外の諸々の業務や他の研究業績(特に、国際的論文集への招待論文執筆作業)などのため、本研究関連の作業に思うように専念できない時期があっただけでなく、発表の権利を得ていた国際学会が開催延期となってしまったことは残念であった。しかし、1年という期間と年度全体の実績を総合的に考慮すると、当初の計画をおおむね達成できたと考えられる。(1)と(2)に関しては今後も継続するが、必要な文献の多くは当該年度中に入手し、当面必要なデータ収集も行えた。(3)に関して、当該年度はコロナ禍の影響で、予定していたものも含めて一度も学会発表を行えなかったが、論文執筆・出版は着実に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、既に初稿を書き上げた、ATでの初出語彙に対するラテン語の影響を調査した論文を加筆修正し、中世英語英文学関係の国際誌に投稿する。同内容は、2021年9月に英国で開催される国際学会で発表予定だったこともあり、まだどの媒体にも投稿していなかったが、開催校の都合で学会は結局再延期となってしまったため、最終版が用意でき次第投稿する。 文法に関しても引き続き調査を続ける。特に、先行研究でラテン語の影響を示唆されたまま、原典との比較が実際には行われていない一部の動詞の用法について、原典との比較に基づく実証的な調査を行い、順次論文を執筆・投稿する。「研究実績の概要」で述べた、非人称動詞に関する論考は、本報告書執筆時点で既に脱稿している。続いて、一部の先行研究で議論された、「必要」を表す動詞群について調査する。これらの作業を通して、ATにおける語彙や文法がラテン語原典での語彙や文法にどのような影響を受けているのかという、これまで長年省みられなかった課題に挑むとともに、15世紀北部イングランドにおけるラテン語の受容の一端を明らかにすることを目指す。 また、2019年度に国際学会で発表し、ワーキングペーパーを出版したトピック(far be itの発達とラテン語の影響)を再考し、データを追加して新たな論文を執筆することも目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
支給額を超えないように支出を慎重に管理したこと、コロナ禍の影響で旅費と人件費・謝金の支出が全くなかったこと、翌2021年度に開催が延期となった国際学会出張のための経費を他の目的のために無理に使用せず、2021年度に残そうと努めたことなどが挙げられるが、これらの理由のいずれも、現時点での研究の達成の遅れを示唆するものではない。
当面の間、国際学会の現地参加はあいにく見込めないが、本研究に関連した内容の書籍(和書・洋書)の購入、文献の複写費、各種消耗品の購入、国内学会・研究会発表のための経費などに充てる計画でいる。
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