当該年度では、前年度に引き続き、An Alphabet of Tales (AT)における特徴的な語彙・文法の調査を行い、その成果を論文にまとめた。語彙については、ATが初出とされるものを調べるため、前年度に書きかけていた論文を仕上げることから始めた。分析の結果、これらの語彙はATでの生起頻度が非常に低く、後の作品でもあまり使用されていないこと、ラテン語原典での語彙をそのまま借用するよりも、当時存在した英語の語彙に基づく複合語・派生語の形成や翻訳借用が多いこと、ラテン語に由来する語彙は宗教など特定の意味領域に限られることなどが分かった。本論文に基づく口頭発表を、オンラインの国際学会で行うべく秋口に応募したが、残念ながら運営側の都合により発表は実現しなかった。また、論文も海外の学術誌に投稿したが、採用には至らなかったため、今後書き直して他誌に投稿を試みたい。 文法については、代表者自身が以前研究した非人称動詞を取り上げ、特にATで初出のirkenとuggenについて、ラテン語原典との対応箇所を調査し、原典の文法からの影響の程度を分析した。結果、一昨年度に分析した、ATでは「まれ」あるいは「時々生起する」と先行研究で述べられている様々な文法項目と同様、ATにおける非人称動詞の用法は、ラテン語原典を忠実に訳した結果とは言いがたいことが分かった。この成果は論文にまとめ、本務校の共同研究プロジェクト成果報告書に掲載に至った。当該年度ではまた、昨年度の報告書で述べた、「必要」を表す動詞群についても調査を行った。興味深いことに、これまでの成果とは逆に、「必要」を表す類義的な動詞の使い分けには、ラテン語原典からの影響がある程度認められることが分かった。本研究課題の実施期間は過ぎてしまったが、本トピックに関しては、2022年度中の口頭発表および論文執筆を行う予定で現在作業を進めている。
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