研究課題/領域番号 |
19K13223
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉村 理一 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (70815282)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 統語論 / 生成文法 / 付加詞の島 / カートグラフィ / フェイズ |
研究実績の概要 |
本研究には、(1)付加詞条件(付加詞内部の凡ゆる要素の抜き出しを禁止)の普遍性に関する通言語的検証を行うこと、(2)付加詞条件に従う例と従わない例を原理的に捉えられる派生メカニズムを解明すること、以上2つの研究目的がある。これら2つの研究目的を柱に据え、日本語・中国語・英語の様々な副詞節(付加詞節)の統語的位置、意味・機能、構造を考察し、当該言語で付加詞条件の例外として報告されているデータを含めた一般化を行う。さらに、近年の生成文法研究で注目を集めるカートグラフィー分析とフェイズ理論の両面から研究し、統語上で付加詞がどのようにして生成されて談話領域に接続されるのか、そのメカニズムを解明することを目指す。 2019年度は、先行研究で付加詞条件の例外性が指摘されているものの包括的な調査が未だ十分になされていない中国語の副詞節について研究を進めた。中国語副詞節内部に移動痕跡を持つと思われる付加詞条件への反例の発掘とそれらのデータベース構築を、文献および中国語母語話者の協力を得て行った。副詞節内部に移動痕跡を持つと思われるデータについては、それらの文法性の判断を複数の中国語母語話者へアンケート形式で答えてもらい、データ解析の専門家に指導を仰ぎ統計処理を進めた。さらに、中国語統語論を専門とする研究協力者と研究の打ち合わせを行い、中国語副詞節に関わる分析を最新の先行研究を用いて検討した。 また、日本語に関しては丁寧語である「です/ます」の統語的振る舞いに着目し、先行研究で紹介されているそれらの分布への反例を示すことで従来の統語分析に対する代案を考えた。より具体的には、カートグラフィー分析でいうところのForce Projectionの役割を考察し、節自体が表す意味の側面と丁寧語が表す話し手と聞き手の関係性の機能的側面がどのように統語上で反映されるかを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国語副詞節内に移動痕跡を持つと考えられる例文を副詞節の種類ごとに作成し、それらの文法性を中国語母語話者に問うたが、統計的に有効な結論を出すには被験者数が十分ではないという課題が残った。しかし、文献と母語話者の協力により、これまで調査が不十分であった付加詞条件の例外性を示すデータベースの基礎を作ることができ、反例と思われるデータを学会発表と論文で暫定的な研究結果として公表することができた。また、日本語に関しては先行研究における丁寧語「です/ます」の分布に対する反例を示し、それらを包括的に説明するための分析を論文として公表することができた。以上の理由により「おおむね順調に進んでいる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は中国語定形付加詞節からの移動データをまとめ、母語話者に文法性の判断を仰げるようにアンケートを作成したので、引き続き協力を依頼して統計的な信憑性の確保に努める。また、暫定的ではあるものの定形付加詞節内部からの移動の可否をまとめたデータベースが完成しているので、その結果を元に一般化を進めると同時に日本語と英語の付加詞分析と比較しながら、独自の統語分析を提案する予定である。 さらに、日本語と英語については、中核的副詞節と周辺的副詞節に分類するカートグラフィー分析を推し進め、演算子が介在することにより副詞節内部要素の移動を阻止する分析案と節のCP領域のサイズの違いに基づき同現象を説明する分析案の両者をデータに基づきながら詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外での学会発表ならびに海外在住の研究協力者との打ち合わせが新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止となったため、その旅費分が次年度使用額として生じた。次年度は、国内外の情勢を注視しながらではあるが国内外の学会に係る旅費として、また、書籍および機器の購入やソフトウェアの更新に充てる予定である。
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