研究課題/領域番号 |
19K13225
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
籾山 陽子 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 研究員 (30789269)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音変化 / 近代英語 / 劇場音楽 / 発音辞典 / 歌詞と音楽の関係 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、18世紀の世俗音楽のうち劇場音楽について研究を行った。特に、ヘンデル作曲のイギリスの名詩を基に作曲された作品『陽気の人、ふさぎの人、温和な人』を中心に歌詞と音楽との関係を調べ、歌詞がどのように発音されていたかを考察した。考察に際しては、音節と音符との対応関係や、歌詞の内容を音楽で表す技法、韻律の表現などの手法を参考にして分析を行った。英語の音変化についての既知の知見を基に研究済みの『メサイア』の成果と照らし合わせて当該時期に音変化の可能性がある語を抽出し考察を進めた。作曲に当たり歌詞の韻律や内容に関する図像も考慮されていることから、楽譜だけでなくこれらの情報についても考察し、発音との関連を示すことができた。作品の基となった詩の発表時期と作曲の時期とに時間のずれがある場合、詩と歌詞を比較することにより音変化が明らかになることも示した。これらの研究成果を、日本音楽表現学会第17回大会、日本音楽学会第70回全国大会にて口頭発表し、『芸術工学への誘い』にて論文として発表した。 次に、一般の言語運用での音変化の状況を調べるため、近代英語期の発音辞典や読み書きの指南書等のファクシミリから音変化の状況を読み取る作業を行った。発音の細かい差異を記述してあるものはほとんどないが、音節の区切りやアクセントは記述されているものが多く、これらから音節数の変化やアクセントの変化を伴う音変化について知見を得ることができた。 これらの資料を用いて時系列的変化からの視点での整理が進んだ結果、楽譜から読み取れる音変化の状況と発音辞典や読み書きの指南書の情報から得られる音変化の状況は、いずれも当時の音変化を反映するものではあるが、書物の用途や作品の内容の差異により音変化の反映の時差があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度・次年度の2年間で、17世紀・18世紀のイギリス世俗音楽について、楽譜に書かれた歌詞と音楽の情報を用いて、英語学の先行研究の成果と照合することにより発音の推定を行う研究と、近代英語期の発音辞典や読み書きの指南書等から音変化の状況を読み取る研究を並行して行い、研究成果を照らし合わせるとしていた。 実際には、楽譜による考察は18世紀の世俗音楽のうち劇場音楽を中心に研究したが、18世紀の音楽で研究すべきものすべてを扱うまでに至らなかった。次年度に残りの18世紀の作品と17世紀の作品について研究することになり、計画より多くの研究が必要となっている。 一方、辞書・読み書きの指南書については多くの書物についての調査・検討が進んだため、次年度に調査する分量は比較的少なくなった。 全体としては、不足分が相殺できて、当初の計画の2年間の研究の半分程度の研究が進んだと言える。したがって、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には、前年度に引き続き18世紀のイギリス世俗音楽について、楽譜に書かれた歌詞と音楽の情報を用いて、英語学の先行研究の成果と照合することにより発音の推定を行う研究に取り組み、次に17世紀の作品についても同様の研究を行う。 また、並行して近代英語期の発音辞典や読み書きの指南書等から音変化の状況を読み取る研究を引き続き行い、研究成果を照らし合わせる。 2021年度は、歌詞の発音の推定については、16世紀の世俗作品と教会音楽について音響分析と照合しながら研究する。また、大母音推移等の長母音から二重母音への変化について、長母音は緊張が持続し二重母音は緩むことと、音高の変化による発声の緊張・弛緩の関係を結び付けて発音の特定をするために、インテンシティやピッチ等の音響分析を行う。そのため、声楽家に歌唱を依頼し分析のための歌唱データを採取する。判定した音変化の状況を、地域や年代、ジャンルや社会的条件ごとに精査し、変化の方向やタイミング、社会的条件の影響などを調べ整理する。 最終年度は、以上をまとめることにより、当時の英語での演奏の音響の復元が可能であることを示すとともに、英語学において楽譜資料が音変化を研究する手段として有効であることを示す。
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