近代英語期の英語の音楽作品の中で、本年度は、前年度に引き続き、16世紀に作られたイギリス音楽について、楽譜に書かれた歌詞と音楽の情報を用いて、英語学の先行研究の成果と照らし合わせることにより発音の推定を行う研究に取り組んだ。そして、研究成果を合唱団や声楽家に歌唱してもらう機会を得て、実際に発音して確かめることができた。 また、引き続き、歌詞に17世紀前半のテキストを用いている箇所と18世紀半ばに新たに書かれた箇所がある18世紀の作品を採り上げ、同じ語で時代の違いにより発音に違いがあることを確かめた。特に、17世紀前半に古風な発音として用いられていた一部の発音はその後新しいものに置き換えられているが、17世紀前半の発音のほとんどは18世紀にも通用していたことが明らかになった。しかし、18世紀の聴衆の共感を得るためにはそれとは異なる新しい発音を用いていたことから、発音の変化が一斉に起こっているのではなく、いくつかの段階の発音が時と場合に応じて採用されながら、移り変わっていく状況が見られた。 これらの研究成果を、解説と演奏の形で、演奏会として一般の聴衆の前で発表することができた。20人弱の音楽家に出演してもらうことで、これらの音楽家の方々にもこの研究成果を体得してもらうことができた。 これらの研究成果と、前年度までに行った、近代英語期の発音辞典や読み書きの指南書等から音変化の状況を読み取り楽譜から読み取った音変化の状況と一般の言語運用における音変化の状況とを比較した研究成果から、当時の英語での演奏の音響の復元が可能であることを示すとともに、英語学において楽譜資料が音変化を研究する手段として有効であることを示すことができた。
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