研究の最終年度には、COVID-19の渡航制限の緩和に伴い、海外で日本語を学ぶ(JFL環境)学生を対象とした調査を行った。調査はインドネシアの大学で行い、N3レベルの中級学習者を対象とした。実験は、2字漢字単語の視覚提示による語彙判断課題であり、単語を構成する漢字と、単語の意味的透明性の高・低を要因とした。実験参加者の反応速度、眼球運動(全体注視時間、サッカード、構成漢字の注視時間)を指標として分析・検討した。また、漢字学習に関するストラテジーと自己効力感に関する質問紙調査を並行して行った。この実験により、中級段階の学習者において、漢字が持つ意味と漢字単語の意味の結びつきによる処理の特徴が顕著にみられなかった。この結果は、日本国内の中上級学習者とは異なる結果であった。また、視線の停留時間やサッカードから、中級学習者の場合、漢字の部首に着目するのではなく、漢字の部分部分から意味によって、日本語の音韻表象にアクセスし、意味処理することがわかった。 本研究では、非漢字圏の日本語学習者を対象とし、視覚的に提示された漢字単語をどのように意味処理するのかについて検討した。日本語の語彙知識を一定数有し、運用レベルで日本語を使用している中上級学習者の場合、構成する漢字の意味から語彙を活性化させて単語の意味を処理する過程を有する。その際、前の漢字と後ろの漢字の往来を繰り返しながら、形・音の手がかりをもとに意味処理する。他方、日本語の語彙知識が十分でない中級学習者の場合、特定の部分に着目するのではなく、漢字を全体的な形を捉え、そこから推測できる音の情報をもとに語彙を活性化させて意味処理することがわかった。
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