本研究の目的は、日本語会話の構造を共感的な反応から解明し、日本語学習者が円滑にコミュニケーションを行えるためのモデル会話を開発することである。ネガティブな経験に対する共感的な反応の特徴を、語り手の経験の語り方と聞き手の共感的な反応の観点から明らかにすることを試みた。 2019年・2020年に日本語話者の会話データ(国内)と日本語話者と日本語学習者の会話データ(国内・海外)、2021年に日本語話者と日本語学習者の会話データ(国内)を収録した。その後、データを分析し、関連研究者に分析の方向性、客観性について確認した。 会話データを分析した結果、愚痴に対する共感については、聞き手が語り手と似た経験を示しながら語り手の経験に寄り添う方法が観察された。単に似た経験を語るのではなく、異なる切り口から経験を語ることで、違う観点からみても「あなたの愚痴は妥当である」という共感的な反応であると同時に、語り手の愚痴の継続を促している。他の側面から語ることで語り手の愚痴を支持するという証明の方法は、語り手を理解できる証拠としての独自性が高まることを示した。自己卑下に対しては、聞き手が語り手を「特別な存在」として扱うことで、語り手のポジティブな部分を引き出し、共感的な反応を示しており、語り手が特別な存在であることを示す機会になっている。同時に、聞き手の共感的な反応は、自己卑下の継続を防ぐような機能を果たしていた。自己卑下に対する聞き手の反応は、語り手を否定したり傷つけたりするリスクも高い。しかし、本研究のデータにおいては、共感的な反応を通して語り手を尊重するような振る舞いがみられ、卑下を阻止する方法となっている。 本研究については、国際学会・全国大会などで発表を行い、参加研究者からの意見を踏まえて、研究成果を論文にまとめた。
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