研究課題
本研究の目的は,外国語教育研究における現在の方法論的主流である実験室ベースの研究(laboratory-based research)に対する代替法のひとつとして,市民科学(citizen science)としての外国語教育研究のあり方を,複数のモデル事例とともに社会に提案することである。第一に,経験サンプリングと数理モデリングという新しい手法の応用可能性について,文献調査による方法論の吟味,そして実行可能性についての予備調査を実施した。特に,経験サンプリングの1例として,LMS(learning management system)といったオンライン・アプリケーションを通じ,単位期間内における特定行動の生起を内省的自己報告させ,それを効率的に集積する技術と手続きを最初に設計し,そしてそれら得られた観測データを多次元の潜在特性モデルによって集約するモデル,さらに,推定された特性値の時系列上の変化に近似する数理モデルの構築と評価を試みた。より具体的には,共分散を持つ複数系列のホワイトガウシアンノイズとして特性値が近似される可能性について検討した。このモデルは,成長曲線モデルとして実装された。次に,検討された上記の方法についての事例研究を行った。より,具体的に,大学における教養教育英語科目を受講する1,000人弱の大学生を対象とし,授業内外の学習行動に関する内省的自己報告のパネルデータを対象とした実証研究を実施した。当該の研究における応用的価値を強調するために,研究協力者の協力の下,教育実践報告という形式によって査読付き論文として年度内に発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初当該年度に計画していた方法論上の検討および,モデル事例の研究については,研究成果の発表までの段階を計画を超すペースで遂行することができた。モデル事例における研究協力者の協力が,当初の計画段階よりも,よりよい形で得ることができたことが主な理由である。
研究の計画段階以上に,当該の研究に関する応用的価値の高さを認識したため,より現実世界での実装可能性の高い方法論について検討する必要がある。さらに,現在の社会情勢から,他のモデル事例として検討されていたデータの取得が困難であることを鑑みて,データ取得方法やモデル事例の設計の変更に迫られる可能性がある。
当初の計画において予定された人的コストおよび物品費について,手続きの見直し等によって効率化できたために余剰となったことが主たる理由である。これらの差額は,本研究の応用的側面を評価するための予算とし,別目的での物品費および人件費として使用する計画である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Annual Review of English Language Education in Japan
巻: 31 ページ: 303-318
広島外国語教育研究
巻: 23 ページ: 45-61