研究課題
本研究の目的は,外国語教育研究における現在の方法論的主流である実験室ベースの研究(laboratory-based research)に対する代替法のひとつとして,市民科学(citizen science)としての外国語教育研究のあり方を,複数のモデル事例とともに社会に提案することである。特に2020年度は,新型コロナ感染症によって,外国語を学ぶ学生の生活様式自体に大きな変更が見られた。このことによって,従来予定していたライフログではなく,その代替としてオンライン学習履歴およびオンライン上での教材の操作履歴に関するデータの利活用をモデル事例として取り入れるべく計画を調整した。オンライン学習における学習履歴の利活用に関するモデル事例を開発することを目的に,大学における教養教育科目として英語を学ぶ学習集団を対象として,学習履歴に対してLMS(learning management system)上で即時的にフィードバックを行うことによって,学習行動への変動がどのように変化するかを検討するための予備調査を実施した。特に,それぞれ固有の学習行動を行う学生をエージェントとみなし,Q学習によって固有の学習行動の頻度水準へ収束していくとする数理モデルについての検討を加えた。さらにおよそ1,000人程度の学生のデータを取得し,この数理モデルの妥当性について検討した。また,上記のモデル事例の補足的な研究として,オンライン授業における教員による解説動画視聴行動を予測するモデルとして,オンライン動画がもつ属性から学生の効用を見積もる方法を実装した。さらに,市民科学やオープンサイエンスとしての外国語教育研究に関する文献調査と専門家への聞き取り調査を続け,いくつかの媒体で市民科学およびオープンサイエンスに関する啓蒙活動を行った。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ感染症の関係から,従来予定していたライフログに関するデータ,または教員行動の自動的記録といったデータを収集することが困難となった。そのため,研究のモデル事例として予定していた案に調整を加え,オンライン学習履歴や教材の操作履歴のデータの利活用を中心としてモデル事例を再編成することにした。この新しいモデル事例案については,データを収集し,順調に研究を実施することができた。同様に,オープンサイエンスや市民科学に関わる文献調査や聞き取り調査についても当初の予定どおり実施することができた。現在,特に前者について研究として取りまとめ,刊行するべく準備を進めている。
当初の予定に変更はあったものの,2021年度は市民科学としての外国語教育研究のモデル事例となる研究を継続して行う計画である。特に,小学校・中学校・高等学校における教師を対象とし,教師が研究の企画・データ取得・データ分析へ研究者と共同的に参画するための手段について検討を重ねる。また,いくつかの学会および研究会にて,オープンサイエンスや市民科学としての外国語教育研究に関する発表を行い,当該のテーマについて,広くアカデミアのみならず,社会の関心を高めるべく活動する計画である。
新型コロナ感染症の拡大により,従来予定した学会発表や研究打ち合わせ等に係る旅費,人件費などの変更が必要となった。また,特にライフログなどを取得するためのデータ端末などの購入費として予定した物品費相当も計画を変更した。これらの費用については2021年度に物品費および協力者謝金として執行予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
広島外国語教育研究
巻: 24 ページ: 179-195
巻: 24 ページ: 153-165
Annual Review of English Language Education in Japan
巻: 32 ページ: 145-160