研究課題/領域番号 |
19K13273
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
畑 和樹 東京都市大学, 共通教育部, 講師 (70803477)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コードスイッチング / 会話分析 / 相互行為 / 媒介語 |
研究実績の概要 |
対象言語(L2)を媒介する語学活動において、参与者は母語(L1)へのコードスイッチングに志向している。その規範性、何をもってL1の産出を良しとするかは、コードスイッチングの対話的機能により一般化できるものでも、参与者によって無作為に決定されるものでもなく、あくまで参与者自身が相互に協議し構成していくものである(Ustnel & Seedhouse, 2005; Sert, 2015)。教員による働きかけが学生によるL2産出を目的としたものであれば、学生のL1応答は反規律的であるとみなされる。しかし特定の言語選択に焦点がなければ、たとえL2を媒介した活動であったとしてもL1は許容される。 本研究は先行研究と同じ視点に立ちながらも、研究の第一段階として「行為達成の前後に起こるL1産出」に注目し、働きかけ行為の性質のみではなく相互行為上の「位置」が言語選択の受容性に強く関わることを示した。(2021年度に出版予定)教員のL2産出を促す行為は学生によるL2応答により達成されるが、その直後の位置で学生が確認のためL1を産出している複数事例において、たとえL1発話が本来のL2応答を修復するようなものであった場合においても、教員は応答の修復に対して優先的に志向し、L1の産出を受容することが見て取れた。つまり言語選択の受容性というのは、単に教員の働きかけ行為が何を焦点としたものかだけに依存せず、その働きかけが達成されたかどうかにに強く関わっていることが示唆される。上記成果はこれまでの報告の根幹を変えるインパクトはないものの、すでに得ている知見のより詳細な記述であると考える。 また、これまでの研究において、媒介語の規律に関しては教員の教育的介入が重要な要素として捉えられてきたが、学生のみが参与する活動における志向については未だ知見が少ない。それに関して1件の論文を執筆し、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍の影響により本来の計画から大きな変更が生じている。 2019年度は所属機関で発生した水害による混乱、2020年度はコロナ禍における遠隔授業への全国的な切り替わりにより、本研究の基盤である「教室環境における相互行為」のデータが予定通り収集できない事態となった。データ収集が遅れた関係で、学会報告や論文執筆にも大きな支障をきたしている。 未だあらゆる教育機関で対面授業へ切り替わる目途も立たないため、2020年度後半より既に収集できているデータ(約18時間分の教室対話)を用いて分析を行うこととした。現段階で収集できたデータは主に学生主体の活動を記録したもので、教員が主導権を取る制度的な語学授業のデータはまだ全体の2割程度である。 元々計画していたよりも少ないデータを用いて分析を重ねているが、本来の研究課題に則する形で数件興味深い発見を得ることはできている。現在1件の論文が2021年度に掲載予定、2件の論文が査読中である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは成果として形になっている現在査読中の報告2件(国内誌1件、海外誌1件)の結果を待ち、修正を可及的速やかに実施、同2件の論文を2021年度に出版することを目標とする。 また、コロナウイルスの情勢を鑑み折を見てデータ収集を再開し、更なるデータに基づく分析が可能かどうか注視していく。万が一対面授業の収集が可能となった場合は、当初のエフォートを超えたとしても、速やかに収集を行いさらに質の高い分析を試みる。 2020年度より、大学における授業に限定せず、小中学校にも収集範囲を広げるべく試みている。小中学校は大学よりも対面授業の実施率が高いため、もしデータ収集が認められた場合はデータ量増加が大きく期待できる。ただし当初の申請内容と大きく乖離する可能性を孕んでいるため、データ収集や分析には細心の注意をもって対応することとする。 さらに、2020年度に対面授業から遠隔授業に切り替わった際、念のため遠隔授業の録画データも多く収集してきている。本研究に則する成果はまだ出ていないものの、こちらも観察を続けていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において学会が対面で実施されておらず、研究活動のため海外への渡航ができなかった。そのため旅費についてはまったく発生していない。同時にデータ収集アルバイトも雇用できず、人件費も0となっている。 2021年度もコロナ禍の状況が解消するとは思えないため、研究図書や必要に応じて研究機材に充てていく予定である。
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