ヒトの言語運用能力は主に他者との社会的なやりとり(インタラクション)の中で発達するが、母語と同様、外国語もインタラクションを通して効果的に習得できる可能性は高い。本研究の目的は、発話に対する聞き手の反応が外国語学習に与える効果とその神経基盤を明らかにすることである。本研究ではまず、未知の疑似英単語を音読後に教師から頷き等の反応があったとき、日本人英語学習者がどのようにその情報を処理するかを検討するため、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験を実施した。本実験により、他者ではなく自身の発話に随伴した「教師の反応」という社会的な信号は運動制御システムへのフィードバックとして作用することが明らかになった。この結果をまとめた論文は、国際誌(NeuroImage)において発表された。 発話は調音器官の運動を伴うことを考慮すると、聞き手の反応の作用で発話技能が強化されるのではないかと考えられる。そこで続いては、聞き手の反応により話す能力(調音器官の運動能力)が強化されるかを明らかにするためのfMRI実験を実施する。研究中断前の最終年度には、予備調査として日本人英語学習者5名を対象に行動実験を行った。今後はこの予備調査の結果を精査し、fMRI実験の実施に向け準備を進める。 本研究の完成により科学的なエビデンスに支えられた外国語指導方法を提案し、新たな学習教材の提供につなげることができる。教育現場においては経験則に基づいて指導がなされる場合が多いが、この現状に対し本研究は実験的手法に基づく新たな観点からインパクトを与えることができる。学習に関わる神経基盤を明らかにするという基礎的研究でありながら、実験で得られた成果を外国語教育の現場に還元できるという点に本研究の意義がある。
|