研究課題/領域番号 |
19K13288
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
山田 敏幸 群馬大学, 教育学部, 講師 (50756103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 外国語教育 / 第二言語学習者 / 文法的誤り / 人間言語の生得性 / 理論と実践の往還 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一言語獲得研究と同じ方法論を用いて、第二言語学習者の文法的誤りが、インプットを一切受けたことがない言語で文法的に許される構造であるか分析することで、人間言語の生得性に対して、第二言語習得研究での実証という新たなアプローチが可能であることを明らかにすることである。また、第二言語学習者がつまずきやすい文法項目を同定することで、英語教育や日本語教育などの外国語教育に貢献することである。研究機関全体の実施計画に照らし、2019年度は、①まず、自由英作文の手法を用い、日本人英語学習者の文法的誤りを収集した。②次に、収集した文法的誤りがどのように分布しているかを整理し、日本人英語学習者がつまずきやすい文法項目を同定した。③最後に、日本人英語学習者の文法的誤りが、学習者の母語である日本語や学習対象である英語以外の、インプットを一切受けたことがない言語で文法的に許される構造であるか分析した。 2019年度の成果としては、①によって、日本人英語学習者の英文を2000以上収集し、文法的誤りを800以上収集することができた。②によって、日本人英語学習者の文法的誤りの分布を調べたところ、およそ7割が母語からの影響であることが分かった。そのうち、およそ6割が冠詞に、3割近くが数一致や主語動詞一致など一致に帰因する誤りであることが分かった。したがって、日本人英語学習者がつまずきやすい文法項目は冠詞や一致であることが明らかになった。最後に③によって、日本人英語学習者の文法的誤りのうち、母語からの影響とは考えにくいものに焦点を置いて分析したところ、"the my room"のようなデータが見つかった。所有格の前に冠詞を置くことは英語ではできないが、イタリア語やポルトガル語では可能である。日本人英語学習者が母語の日本語でも目標言語の英語でもない言語の文法を使用している可能性が残された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、5つの事項について以下の方法で実施する計画である。(A)まず、日本人英語学習者の文法的誤りを収集する。(B)次に、収集した文法的誤りを含む非文を実験的に検討する。具体的には、データとしての信頼性を高めるために、各非文の容認可能度を質問紙や反応時間測定(自己ペース読文課題など)の実験を実施して数値化する。(C)次に、収集した文法的誤りを分析する。(D)次に、日本人英語学習者がつまずきやすい文法項目を同定する。(E)最後に、上記(A)~(D)を応用して、分析対象を日本語学習者に拡張する。 2019年度は上記のうち、(A)、(C)、(D)の3項目の基礎的な部分を行なうことができた。ただ、(B)の予備的な実験を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症という当初予期していなかった問題が生じたため、実験の準備のみを実施するにとどまってしまった。だが、(C)によって、日本人英語学習者の文法的誤りには、母語の日本語や学習目標言語の英語からの影響とは考えにくいものがあり、そのような誤りは他言語の文法では容認できる可能性が残されたことは、今後の研究にとって大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】でも述べたが、2019年度は当初予期していなかった新型コロナウイルス感染症問題が生じたため、計画していた行動実験を実施することが困難であった。2020年度は実験を実施する予定である。だが、新型コロナウイルス感染症問題の収束が見通せない状況が続いている。そこで、本研究が実施する予定の5つの事項について、(B)「収集した文法的誤りを含む非文を実験的に検討する」は可能な状況になってから実施する。(B)の準備を進める一方、行動実験が実施できるまでは、残りの4つの事項(A)「日本人英語学習者の文法的誤りを収集する」、(C)「収集した文法的誤りを分析する」、(D)「日本人英語学習者がつまずきやすい文法項目を同定する」、(E)「上記(A)~(D)を応用して、分析対象を日本語学習者に拡張する」について可能な範囲で実施し、研究計画全体を前進させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は年度末に調整がうまくできなかったからである。次年度使用額が少額であるため、次年度の使用計画としては次年度実施予定の実験に使う物品の購入に当てる。
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