研究課題/領域番号 |
19K13316
|
研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
松岡 昌和 東京藝術大学, 大学院国際芸術創造研究科, 研究員 (70769380)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 戦争の記憶 / 第二次世界大戦 / シンガポール / 香港 |
研究実績の概要 |
2019年度は、まず研究課題に関連するテーマについて、これまで調査・整理を行ってきた内容を論文の形で発表した。倉田徹編『香港の過去・現在・未来』(勉誠出版)所収の論文「リー・クアンユーの目に映る香港」では、シンガポール初代首相で戦後アジア政治に大きな影響力を行使してきたリー・クアンユーの香港についてのスピーチやインタビューを整理した。本論文は、直接的にポピュラー・メディアについて分析していないものの、その研究の前提となる、政治史的背景について明らかにしたものと言える。 これまでの研究に基づく学会発表として、2019年6月に一橋大学大学院言語社会研究科韓国学研究センターと延世大学近代韓国学研究所共催のシンポジウム「人文学研究の知的基盤省察と東アジア学 -近代学問と知識人-」では戦時期日本から東南アジアに渡った文化人によるプロパガンダ活動について、2019年7月にはバンコクで開催されたAAS-in-Asia Conferenceでは、日本占領下香港における映画のレパートリーについて、2019年11月に立命館アジア太平洋大学で開催された17th Asia Pacific Conferenceでは、シンガポールにおける戦後史表象についての発表などを行い、国内外の研究者との意見交換を行った。 新たな資料の調査については、2019年8月に香港を訪問し、香港大学図書館や香港電影資料館などにおいて、戦後香港におけるメディアについての基礎的な資料を入手した。また、現地の歴史研究者と戦跡や香港歴史博物館を訪問し、香港における戦争の記憶についての現状を調査したほか、当該領域の研究動向についての意見交換を行った。香港での調査では、本研究の重要な先行研究となる刊行物も入手することができ、それらの整理を継続している。そのほか、国内においても資料調査を進めており、今後の成果の発信を準備している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、研究実施計画の順序を変更することになったが、香港を訪問し、今後の研究遂行に必要な資料を入手することができた。また、新たに現地の歴史研究者と意見交換する機会に恵まれ、本研究にかかわる研究動向についてもさらに理解を深めることができた。そのほか、国内でも新たな資料を入手し、その分析を進めることができている。本年度発表した論文や学会発表は、いずれもこれまで研究代表者が本研究課題の準備段階として行ってきた調査を発展させたものであるが、本研究課題の基礎的な成果として位置づけられる。また、今後の研究成果の発表のために、本研究課題を構成するいくつかの小さなトピックを設定し、そのための資料の分析、整理を進めている。 2019年度末にはアメリカ合衆国で開催される国際学術大会AASに採択されたため、研究実施計画を一部変更し、その渡航に合わせて、当該国内の機関の資料調査を計画したが、2020年3月にCOVID-19の世界的流行に伴う学術大会の中止や関係機関の閉鎖、移動の制限などにより、計画を中止せざるを得なくなった。これについては、当初2019年度実施の計画ではなかったため、研究の進捗を大きく後退させるものでなく、今後改めて調査を計画する。 以上の点から、現状においてはおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、まず2019年度の資料調査に基づいて設定したいくつかの小さなトピックについて、その研究を進め、成果を国際学術大会での発表と論文執筆につなげることを計画している。特に、戦後の映画を通じた日本と東南アジアとのつながりについて、すでに複数の国際学術大会で発表することが決定している。その一部は、COVID-19の世界的流行により、2021年度への延期を決定しているが、当該トピックについてのまとめについては、計画通りに進めていくことを予定している。 また、新たな資料調査およびこれまでの調査を補足するための追加的な調査を、国内の諸機関、また、シンガポールおよび香港で実施することを計画しているが、2020年度はじめの時点でCOVID-19が当該地域で大きな影響を及ぼしており、その遂行が円滑に行えるかどうかについて、2020年度については不透明である。この懸念が解消された段階で、シンガポール国立大学、シンガポール国立図書館、旧フォード工場展示室など、シンガポールの諸機関における新たな資料調査と、香港歴史博物館など香港での諸機関における追加的な資料調査を行う予定である。イギリス、オランダ、さらに新たに必要が生じたアメリカ合衆国での資料調査については、2021年度の遂行を計画している。 以上の調査に基づき、2020年度以降において、研究成果を日本語および英語で論文としてまとめていく作業を進めていく。また、同時にそれらを国内外の学術会議で報告すべく、そのための申請を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度はアメリカ合衆国で2020年3月に開催される国際学術大会AASに採択されたため、当該学術会議への参加とそれに合わせた資料調査を計画した。しかし、当該学術会議がCOVID-19により中止になったほか、研究機関の閉鎖や移動の制限が生じたため、アメリカ合衆国への渡航を見合わせた。アメリカ合衆国への渡航は2021年度に改めて計画する予定であり、2019年度の渡航中止によって生じた未使用額については、新たに必要が生じた学術図書の購入及び国内での研究活動のための学術団体年会費、学術刊行物への原稿掲載料に振り替えて支出する。
|