研究課題/領域番号 |
19K13316
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
松岡 昌和 東京藝術大学, 大学院国際芸術創造研究科, 研究員 (70769380)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦争の記憶 / 第二次世界大戦 / シンガポール / 香港 / アジア・太平洋戦争 |
研究実績の概要 |
2020年度は、COVID-19の世界的な流行により、研究のフィールドとなるシンガポールおよび香港、さらに調査先として本課題で計画していたイギリスやアメリカ合衆国への訪問がいずれも不可能となり、これまでに収集した資料に基づく研究結果の公表に重点をおいた。 まず、シンガポールに関しては、1960年代にシンガポールを舞台として制作された日本映画『シンガポールの夜は更けて』について、その作品の内容、登場人物の表象、その背景となる国際政治と汎アジア主義をめぐる議論を、2021年1月にオンラインで開催されたEAPCA II Conferenceにて行った。これについては論文化し、日本語および英語で公表する準備を進めている。また、これに関連し、戦間期から戦後にかけてのシンガポールにおける大衆文化と政治文化との関わりについて、歴史教育への研究成果の応用という観点から、近年の東南アジア研究やシンガポールにおける歴史研究をまとめる形で、2020年10月に「歴史学会第3回歴史総合シンポジウム:「国際秩序の変化や大衆化」の論じ方―1910 年代から 50 年代の世界」において報告を行った。これについても論文化を進めている。そのほか、2021年3月には、これまで行ってきた日本占領下シンガポールでの映画上映についての研究を整理し新たな知見を付け加える形でAAS 2021 Conferenceにおける報告を行った。時期は未定であるが、同じパネルのメンバーとともに中国研究あるいは関連分野の英文学術雑誌の特集としての論文化についての提案がある。 香港については、2019年に行った香港歴史博物館の展示についての分析と整理を進めた。その一部は、立教大学アジア地域研究所の機関誌『なじまぁ』にエッセイとして発表した。日本占領期の展示に関わる具体的な分析については、論文化を進め、2021年度中の公開が予定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、COVID-19により、海外渡航が大幅に規制され、予定していた国外での調査はすべてキャンセルした。そのため、新たな資料の収集はほとんど行うことができず、これまでに収集した資料の整理や、それに基づく成果の公開を進めていくことに集中せざるを得なかった。この間、世界的に学会等のオンライン開催が進み、研究発表の機会はそれなりに得られたと考えられる。また、そのような機会を通じて研究成果の論文化の機会も得られ、今後の研究の進展につながる道筋がつけられたと考える。 とは言うものの、資料調査を行うことができなかったことで、研究の進捗状況は若干の停滞を余儀なくされたことは確かである。また、懸念事項として、研究対象地である香港で国家安全維持法が制定・施行されたことにより、今後の調査について先行きがやや不透明になった点があげられる。 以上の理由から、本研究課題の進捗状況はやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も引き続きCOVID-19により、国外での資料調査を進めていくことの困難が予想され、これまでに収集した資料に基づく研究発表や論文執筆を中心に進め、状況に応じて国内での資料収集を行う。 研究発表では、2021年7月にシンガポール国立大学を開催拠点としてオンライン併用で行われるInter Asia Cultural Studies Conferenceへの参加と、8月にオンラインで開催されるEuropean Association for Japanese Studies International Conferenceへの参加が決定している。いずれの学会においても、2020年度に研究を進めてきた1960年代の日本映画に見られるシンガポール表象について、アジア主義の観点や華人描写の観点からの報告を行う。これに関連するトピックについてはすでに2020年度中に別の機会でも報告しているが、その報告をもとにした英語の論文の執筆を進めており、本年度中に投稿を行う。 論文執筆ではこれに加え、香港における戦争の記憶について執筆し、本年度中に論文集として刊行が予定されている。これに加えて、本研究課題に関連して、戦間期シンガポールの大衆文化とナショナリズムについて、また戦後日本と東南アジアとの関わりについて、それぞれ歴史教育への貢献を目的とした出版計画のなかで原稿を執筆しており、本年度中の刊行が見込まれる。 現時点では調査を目的とした国外への渡航の見通しは不透明であるが、安全が確保され次第、まずはシンガポール国立大学、シンガポール国立図書館、旧フォード工場展示室など、シンガポールの諸機関における新たな資料調査を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行により、当初計画していた国外での資料調査ならびに学会参加が行えない状況となり、それに伴う未使用額が発生した。これについては、今後図書の購入やリモートのサービスを利用するなど、国外出張を伴わない形での資料の収集として使用するほか、安全が確保され次第、国外での資料収集を集中的に行う形での使用を計画している。
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